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梓「ジョニーが凱旋するとき」 はてなブックマーク数 tweets

梓「ジョニーが凱旋するとき」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:35:15.67 ID:W/Ns2wUZ0

“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 この番組は、軍歌"When Johnny Comes Marching Home"及び
 その原曲である民謡"Johnny I Hardly Knew Ye"を題材として、

 桜ヶ丘女子高等学校の少女たちが
 戦時下において過ごした青春の日常を、
 同校の軽音部を中心に描いたアニメです。

 制作は、平成四十五年、京都放送局。
 戦勝十五周年記念スぺシャルとして制作されました。

 今回は、第1話「出征!」をお送りします”
                        (冒頭ナレーション音声:山根モトヨ)

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:37:26.25 ID:W/Ns2wUZ0


U.S. Military Academy Band(上記楽曲資料数種を適宜挿入。以後同様)
────────────────────────────────

 排他的経済水域における権益争いに端を発した武力衝突は、
 瞬く間に拡大し、激化の一途をたどった。

 そして、平成二十某年、春。

 戦局の悪化にともない、
 遂に高校三年生の徴兵猶予は解除される。

 それは女子とて例外はなく、先輩方も徴兵となり、
 楽器を武器に持ち替えることとなったのだ。

 この日は、ついに出征の壮行会。
 武運長久の横断幕が張られ、壇上から驕敵撃滅の喝が飛ぶ。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:38:15.92 ID:W/Ns2wUZ0


「萬歳! 萬歳!」

 私たち下級生は、虚勢を張るように歓呼の声を送る。

 細波の如くしきりに打ち振るう小旗もどこか力無く、
 勇壮なはずの鼓笛の音色もうら寂しく哀切を帯びる。

 戦闘服の三年生約二百名は校庭に整然と隊伍を組み行進する。
 全員が戦闘帽を目深に被って誰が誰とも見分けがたく、
 表情さえもうかがい知れなかったが、
 みな例外なく、五月晴れの日差しの下、帽子のつばが作る濃い影の下で、
 口を真一文字に結んでいたのが私の目に焼き付いた。


 壮行会後、あちこちに千切れ飛んだ紙の小旗を拾い集める。
 校庭の片隅に小旗を集めて燃やしていると、
 祭りの後の侘びしさともあいまって、まるで荼毘に付しているようだ。

 私は不吉な雑念を払うようにかぶりを振るが、
 暗澹たる気分は拭いがたく、煙で目が燻されたふりをして涙ぐむ。

 …ふと、出征前の最後のティータイムが思い出される。


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:39:54.65 ID:W/Ns2wUZ0

────アッサムティーに落雁。

奇妙な取り合わせだが、物資供給が逼迫した時節柄、
輸入品と甘いものが口にできるだけでも、とてもありがたいことだ。

「ドラムは軍楽隊への誘いとかなかったんですか?」

「バカ言え。吹奏楽部の連中でさえ根こそぎ歩兵科なんだからな。
 お国にはきっとそんな余裕ないんだ。でなきゃ私らが軍隊に行く理由がない」

私が話を振ると、律先輩がズズ、と紅茶をがぶ飲みしながら言う。
そこに唯先輩が落雁の欠片を机にポロポロこぼしながら割り込む。

「ムギちゃんなら兵科選びどころか徴兵逃れもできそうだよね!」


「おい唯。何気なくすごい失礼なこと言ってるぞ…」

「ウフフ。私、みんなと共に死線を乗り越えるのが夢だったの~」

澪先輩が唯先輩をたしなめるが、ムギ先輩は笑って受け流す。


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:42:36.36 ID:W/Ns2wUZ0

すかさず律先輩が話題を拾って澪先輩をからかう。

「ムギは気楽だなぁ。ま、無事に乗り越えられりゃいいんだけどさ」

「律ぅ!怖い話するなよ…」

「下手すると指がスパーっと切れて血がドバーっとどころじゃ…」

と、律先輩が言いかけたところで、珍しく唯先輩が気色ばんで制止する。

「りっちゃん!縁起でもないこと言わないでよ!」

「…ゴメン、ふざけすぎた」

本人たちも意図していなかったのだろう、思わず大きな声を出した唯先輩、
失言した律先輩ともに、若干きまりの悪そうな顔をしている。

場の空気を酌んだ私は話題を別の方向に向けると、ムギ先輩が嘆息しながら言う。

「しかしなんで女子高生まで徴兵されなきゃいけないんでしょうか」

「相変わらず米軍が地上兵力を出し渋ってるんですって」


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:43:23.88 ID:W/Ns2wUZ0


途端に、唯先輩と律先輩が茶化すが、澪先輩が失笑しながら突っこむ。

「ひどいよね!自分の国は自分で護れったってこんなか弱いレディを!」

「全くだ。こんな花も恥じらう乙女をだな…」

「お前ら“レディ”とか“花も恥じらう”ってガラじゃないだろ」

その突っ込みを聞いた唯先輩と律先輩が、軍事教練の訓辞を揶揄する。

「ホントに“一人十殺”とか無理だよね~。せいぜい半分だよ」

「半分でも無理だろ!サラッと言うな!」

私には、無理をして明るく振る舞う先輩方の姿が痛ましかった。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:44:26.70 ID:W/Ns2wUZ0


紅茶の残り香がかすかに漂う部室。すでに陽はだいぶ傾いている。
爆風対策で十文字にテープを貼られた窓ガラスから、不格好な日差しが影を落とす。
ムギ先輩がティーポットの蓋を閉める音がカラリと部室に響く。

「…紅茶もこれで最後ね。輸入品は私もさすがになかなか手に入らないから」

「これでティータイムも当分お預けですね」

「フフ、梓ちゃんも改めてティータイムの素晴らしさを確認できたわね」

「そういうわけじゃないですけど…」

戦地に赴く先輩方の身の安全と、取り残される我が身の寂しさを案じて、
思わず声のトーンが下がる。


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:45:53.40 ID:W/Ns2wUZ0


それを察して、というわけではなさそうだけれど、唯先輩が私に微笑みかける。
他の先輩方もそれに続いて声を上げる。

「戦争終わったらまた会えるよあずにゃん!」

「そうね。またみんなでお茶して、そして楽器を弾きましょう!」

「無事に帰れば何の問題もないぜ!」

「ちゃんと卒業証書もらわないと大学受けられないからな!」

すると、律先輩が意地悪な笑みを浮かべて唯先輩をからかう。

「ま、唯は帰還しても普通に留年して卒業できなさそうだけどな~」

「そりゃヒドいよりっちゃん!」

「あはは…あ、はは…」

きっと戦地に赴く先輩たちのほうがずっと不安なはずなのに、
私には先輩方に励ましの言葉を掛ける余裕はなかった。

銃後を託される側として、先輩方が後顧の憂いを持たぬよう、
泣くのを堪えるのが精一杯だった。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:48:06.25 ID:W/Ns2wUZ0


──しばし日が経った後。

『国防軍関東被服廠桜ヶ丘支廠』

学校の門扉には新たに掲げられた看板。
瀟洒な造りの校舎にも迷彩塗装が施され、見る影もない。

一応、高校の名も残ってはいるが、
これが現在の私たちの所属組織の正式な呼称である。


「作業中止!飯上げーッ!」

正午のサイレンとともに、監督官の号令が飛ぶ。
生徒、いや職員たちは点呼を終えると、三々五々、綿埃の舞う作業棟から退出してゆく。


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:50:13.60 ID:W/Ns2wUZ0


憂、純と三人で廊下を歩いていると、かすかな醤油の臭いが鼻についた。
私はマスクを取って作業服のポケットに押し込みながらため息混じりに呟く。

「はぁ、今日もお昼はすいとんかな…。さすがにお腹すくよ」

「糧秣廠ならいろいろ食料のおこぼれがあったんだろーなぁ」

「純ちゃん、そんなこと言ってると警務隊に睨まれるよ…」

「牛肉のカンヅメとか欲しい~」

憂の心配をよそに、そう言って、純がお腹をグゥと鳴らす。


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:51:22.19 ID:W/Ns2wUZ0


牛肉、という単語を聞いて私も空腹感が増し、自らに言い聞かせるように純をなだめた。

「兵器廠はもっと作業がキツいって噂だし我慢しようよ」

「梓…、トンちゃんってさ、おいしいの?」

「純が言うと冗談に聞こえない」

「じゃあ甘いモノ食べたーい!生垣のツツジの蜜も吸い尽くしちゃったしな~」

「あれ犯人純ちゃんだったの?蜜吸っちゃダメって告知が出てたよ…」

「夏はサルビアの蜜を吸おうかな~。秋はムカゴ取って、冬は自然薯掘って」

「たくましすぎるよ純は…」

そう言って私は苦笑した。

今にして思えば、ひもじくとも、まだ銃後は牧歌的な季節だった。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:54:04.31 ID:W/Ns2wUZ0


一年生と二年生が午前午後の2交代で作業に入る。
午後は物理と体育の授業があった。
最近は授業と言っても、簡易兵器の製造法教示やら軍事教練やらばかりである。


わずかばかりの休み時間に、憂が一葉の葉書を瞬きもせず眺めているのに気付く。

「それ、唯先輩からの手紙?」

「うん…梓ちゃんも読む?」

肌身離さず持っているという葉書を読ませてもらう。
すでに消印は1ヶ月近く前になっている。
その後新たな音信はないことが容易に伺えた。

ただでさえ紙質の悪い軍事郵便葉書は、幾度も憂が読み返したのであろう、
手垢がついて赤茶け、角は欠けて文字はかすれはじめていた。


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 10:57:13.75 ID:W/Ns2wUZ0


『憂へ 

  元気にしてますか。私はいちおう元気です。
  ■■■での最終編成を終えた私たちは、ついに■■■■に行くことになりました。

  ちょっとさびしいけど、けいおん部のみんな、クラスのみんながいるので大丈夫です。
  あずにゃんにもよろしく。仲良くすごしてください。あとじゅんちゃんも。

  どうかういもげんきにしててください。もうしょーとーみたいなのでこのへんで』


消灯前に急いで書いたのか、後半はひらがなの走り書きになっていた。

唯先輩の書く相変わらずどこか呑気な文面と、
おそらく地名だったのか、検閲で黒々と塗りつぶされた暗闇のギャップが、
戦地の緊張感を否応なしに引き立てる。

窓から西の空を眺める。

(先輩方は、無事なのだろうか…)

心配しても仕方ないことだけれど、否応なしに心はざわついた。

                               [第1話 終]


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:01:07.24 ID:W/Ns2wUZ0

“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第2話「戦闘!」をお送りします”


─────────────────────

Ultima Thule


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:04:35.96 ID:W/Ns2wUZ0


──宮崎県延岡市南西部

まだ初夏とはいえ、じっとしていても汗ばむ。
野戦であれば尚更のことだ。
曇天に遮られ、直射日光が当たらないのが唯一の救いである。

エリは、行軍中に前方から近付くヘリの機影を発見する。
各自取り急ぎ身を隠す。
そして、小隊長であるさわ子、否、山中軍曹から見立てを求められる。

「敵のWZ-9です!こちらには気付いてなさそうです」

「単機とはナメてるな。迷い込んだか?…おい琴吹、やれ。初陣だぞ!」

「…はい、どんとこいです!」

紬は、本物の武者震いを体験する。この一弾が命運を決するのだ。
地対空誘導弾を構える。
米軍旧式装備の払い下げとはいえ、失敗の言い訳にはならない。

回転翼の羽音が徐々に近付いてくるが、
次の瞬間にも、ヘリのミニガンが火を噴くのではないか、
そう思うとそれ以上に自らの呼吸音と心音が尋常でなく大きく聞こえた。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:07:36.06 ID:W/Ns2wUZ0


さわ子がタイミングを計る。

「まだだ…よく引きつけて、てっ!」

発射。

誘導弾は吸い込まれるようにして敵機に命中する。
回転翼が四散し、機体がバランスを失い、地表に落ちていく。

級友、いや、隊員たちの歓声が上がる。
紬は思わずガッツポーズを取った。が、

「センセ、捕虜は?」

「…“先生”はやめなさいと言ったはず」

というやりとりを耳にして、

(ああ、私は人を殺めてしまったのだな)

と実感し、前方の残骸から立ち上る煙をしばし眺めていた。


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:11:00.40 ID:W/Ns2wUZ0


──私は不思議と、怖くも悲しくもなかった。

「じゃあ、第3班と第4班、…あと、琴吹はここに残れ」

しかし、そう言われて、私は第3班、第4班と共に残された。
おそらく、はたから見れば茫然自失の体だったのだろう。

山中軍曹らは残骸を調査しに行った。
あの高さから墜落しては生存者は居ないとは思う。


が、数分後、数発の銃声と手榴弾の炸裂音がして、辺りは騒然とした。
程なく、山中軍曹から「心配ない、すぐ戻る」と無線が入り、全員が無事帰った。

残骸を調べに行った人たちは、一様に暗い表情をしていた。
どんな状況であったかは、ある程度想像はつくけれど、所詮は想像でしかない。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:13:25.34 ID:W/Ns2wUZ0


残骸調べに行ったりっちゃんが私に近づいてきた。
簡体字で何やら書かれた銀紙製の包みを差し出しながら、

「ムギ、お手柄だったな。チョコレートがあったから食え!」

と言って、労をねぎらってくれた。
りっちゃんはぎこちなく笑っていたけれども、
その手は一見して分かるほどに震えていた。
何を見たのか。何をしたのか。私が言えた義理ではないのだけれど。

少し離れたところで、澪ちゃんが、唯ちゃんに背中をさすられて吐瀉していたが、

「しゃれこうべ…しゃれこうべ…」

吐きながら時折、うわごとのように繰り返していた。

その近くで、立花さんが段差に腰掛けて、片膝を右腕で抱えながら、
人差し指を曲げたり伸ばしたりしていた。

(彼女も撃ったのかしらね…。私みたいに)

溶けかかったチョコレートを一口頬張ると、確かに甘く感じた。


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:17:06.71 ID:W/Ns2wUZ0


さらに時間は経過する。

───桜ヶ丘支廠会議室

「…では、教育振興局以外からは特段異論も無いので、
 これを基本方針とし、必要に応じ微調整して進めよう。
 これにて定例廠議は終了する。解散!」

支廠長の宣言とともに、会議の出席者たちは談笑しながら出口に流れていく。

(談笑の端々からマイセンやセッターといった単語が聞こえてくるけど、
 このご時世、いったいどこで煙草など手に入れてきているのかしら…)


と、桜が丘支廠教育振興局学事課長は、徒労感で全身の筋肉が弛緩するのを覚え、
椅子の座面と背もたれに尻と背中が張り付いたかのような感覚に襲われる。

三年生でただ一人、徴兵されながらも才を買われて後方勤務に慰留され、
桜ヶ丘支廠の一課長となった、真鍋和その人である。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:19:00.90 ID:W/Ns2wUZ0

───数十分前。

三年生出征後の軍需生産と兵役戦備の資源分配について折衝が行われていた。

「では金曜日についても生産動員に充当するということで」

「いや、後備役の練度に不安もありますし、その点ご配慮を」

「ちょ、ちょっと待ってください!教育局の頭越しに決められても困ります!」

居並ぶ支廠幹部連が「またか」といった表情で、学事課長、つまり私に向き直る。
めいめい、額に、眉間に、鼻に、口角に、皺を寄せている。

私は一瞬怯んだが、臆せず努めて冷静に主張する。

「もう週2日ずつ、つまり週4日、動員と訓練に割り当てられてます。
 すでに高等学校教育課程の実施は極めて困難な時間しか残されていません。
 これ以上の授業時間削減は、到底容認しかねます!」

「そう仰るが、では生産計画が達成不可能な場合はどうなります?
 軍需局でなく教育局で責任が取れるのですか?」

先程まで兵務課長と鞘当てを演じていた生産課長が、
後退しかかった七三分けを撫で付けながら嫌みたらしく反論する。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:20:14.87 ID:W/Ns2wUZ0


さらに、腕組みをした角刈りの兵務課長が一瞥もくれずに言い捨てる。

「然り、戦備計画も同様です。そちらで責任を持つのなら話は別ですが」

「そ、それはそうですが!では逆に教育課程が実施不可能な場合、
 他局他課で責任を取って頂けるのですかっ?」

私が声をうわずらせまいとしながら反駁すると、
短髪の胡麻塩頭の兵務戦備局長が事も無げに言う。

「…それはそもそも、支廠として関知することじゃあるまいよ。
 それは桜ヶ丘高校の中で処理すべき問題。
 高校側で、別途、課外授業等の策を講ずるべきものだ」

(週末さえ動員のある日も多いのに、課外授業の時間などあるものですか!)

そんな思いを飲み込んで耐えていると、
さらに、下ぶくれの軍需生産局長の猫なで声がする。

「まあ、教育局さんは既得権を害されると、そのォ、
 多少、思うところがあるのはお察ししますがネェ…
 私らも職責を全うせねばならんのですよ。その点、ご配意頂きたいですナ」

「…しかし!」


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:21:33.77 ID:W/Ns2wUZ0


なおも必死に食い下がろうとする私に対して、
副支廠長が右手でオールバックを掻き上げながら、
左の掌をこちらに押しやる仕草をする。


「まぁまぁまぁ、学事課長の仰ることもわからんではない。
 本件についての詳細は別途協議して微調整ということでいかがかな?」


“詳細は微調整”ということは、大筋の方針はこれで決まりということだ。
あとは条件闘争が関の山。予算、人員、権限の削減・縮小は免れない。

校長と副校長──教育振興局長と教務課長は、貝のように押し黙ったままだ。

校長の白髪交じりの口髭が、鼻息でかすかに揺れている。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:23:19.91 ID:W/Ns2wUZ0


────────

解散後の会議室には、教育振興局の局長と教務課長と学事課長、

──つまり、桜ヶ丘高校の校長と副校長と生徒会長の私だけが残っている。

「すまんね…。君にはいつもつらい思いをさせる。
 だが私が正面から反論すれば彼らは本気で潰しに掛かってくるだろう…」

「予算などの削減幅はなんとか最小限に抑えるよう努力するが…」

「いえ、いいんです。いつもお気遣いありがとうございます。
 もう、慣れましたから……」


校長らも退室して人気の絶えた会議室の末席で、
私は、どこにでもありそうな白と青の湯飲みを鷲掴みにすると、
冷め切った出がらしの番茶を一気に飲み干した。

深く息をつくと、壁に貼り付けてある支廠の組織図が目に入る。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:25:05.96 ID:W/Ns2wUZ0


国防軍関東被服廠桜が丘支廠組織図及び事務分掌(平成二十某年○月一日付)

支廠長
┣総務会計局 … 支廠における総務会計事務《局長:副支廠長兼務》
┃  ┣総務課 … 総務、秘書、儀典等
┃  ┣人事課 … 任免、考課、懲戒等
┃  ┣経理課 … 会計、予算、経理等
┃  ┗管財課 … 施設、消費財、光熱水道管理等
┣軍需生産局 … 支廠における軍需生産事務
┃  ┣調達課 … 設備、原材料、労働力の調達、動員等
┃  ┣管理課 … 設備、原材料、製品の管理等
┃  ┣生産課 … 被服その他の生産等
┃  ┃  ┗各作業室等
┃  ┗検査課 … 被服その他の検品等
┃      ┗各検品室等
┣兵務戦備局 … 支廠における兵務戦備事務
┃  ┣兵務課 … 兵制、軍籍管理、警務等
┃  ┣軍務課 … 訓練、教練等
┃  ┣戦備課 … 兵器、車両、軍用品等調達・管理等
┃  ┗医事課 … 医務、薬務、衛生、防疫等
┗教育振興局 … 高等学校相当教育課程《局長:桜が丘女子高校校長兼務》
    ┣教務課 … 学校教育、教務活動等《課長:同校副校長兼務》
    ┗学事課 … 学校事務、庶務等《課長:同校生徒会長兼務》


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:26:52.33 ID:W/Ns2wUZ0


“徴兵逃れ”と誹られ“生徒会長の職権濫用”と陰口を叩かれながら、
支廠の一課長として孤軍奮闘しているのも、高校のためを思えばこそだ。

しかし、そんな美辞麗句も職責を全うしてこそ説得力を持つ。
努力するのは当然のことで、成果も出ないままに教育体制はじわじわと蹂躙される。

むしろ、自分が意見を言えば「一応意見は承った」とガス抜きのダシにされて、
奸智と狡猾さに長けた狸親父どもの手のひらで踊らされるだけではないか。

これでは文字通り徴兵逃れの方便と邪推されても反論できない。

「生徒会で多少慣れたつもりでいたけれど、所詮は児戯だったわ。
 官僚機構ってこういうものなのね…」

私は、そう呟くと、空いた湯飲みを茶托が割れんばかりに叩き置き、
そして机に伏して、自らの力不足を呪った。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:30:04.05 ID:W/Ns2wUZ0


──宮崎県日向市西郊

本日は晴天なり。じりじりと照りつける太陽が憎い。
すでに桜ヶ丘中隊は最前線での戦闘にも巻き込まれ、疲労の色が濃い。

練度、武装共に非力極まる中隊には負担が重すぎるが、
2組、いや第2小隊には戦死者も負傷者もいないのが唯一の幸いである。

お陰でみんな、良くも悪くも、戦闘には馴れてきてしまっている。
……約一名を除いて。



海岸沿いに比べて守りが手薄なのを衝かれた。
敵陣の方向から信号弾が打ち上げられ、
太鼓や銅鑼の音とともに敵兵が雲霞の如く攻め寄せる。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:32:10.89 ID:W/Ns2wUZ0


律は焦っていた。

やばい。マジでやばい。これが本物の人海戦術ってやつか。
横山光輝のマンガじゃあるまいし、今どきこんなムチャな攻め方なんて。
敵の火力も弱いのだけが救いだがこりゃまずいぞ。

一人十殺、もしかしたらやれるんじゃないか?別にやりたくはないけど。
でも、マジでやらなきゃこっちが死ぬ!

そう思った刹那、鼻先にあった土くれに弾丸が当たって砂埃と化し、
跳弾が頬をかすめる。

「あっ…ぶねえなオイ!殺す気か!」

思わずそう叫んだ瞬間気付いた。
そうだ。相手は私たちを殺す気なのだ。その逆も、また然り。


「ぎゅいーん!ばぁん!ばぁん!」

唯は照準器に全く目を合わせていないにも拘わらず、
それなりの精度で寄せ来る敵兵に弾丸を命中させている。

「よしきた!」

紬が遠投した手榴弾が土手の向こうに投げ込まれると、
一拍措いて、爆発と共に大小様々な人体の肉片、血塊が弾け飛ぶ。


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:34:34.70 ID:W/Ns2wUZ0


「見えない聞こえない見えない聞こえない…」

そして、澪はただ震えていた。

戦うことは無論、このおぞましい光景を正視どころか覗き見ることもできず、
その両まぶたはしわが寄るくらいに固くつぶられている。

その両手は、耳に入る音を遮断すべく耳介が潰れるほど押さえつけるが、
それも無駄な抵抗だった。
視覚と聴覚を、なしうる限りに閉ざしても、外界の状況が手に取るようにわかる。

内耳に直接響くような発砲。銃砲弾が笛の鳴るように空を切る。
腹腔まで揺さぶるほどの着弾。砲弾片が梢をなぎ払う。
巻き上げられた土砂が降ってくる。鉄鉢にぱらぱらと当たる。
敵の太鼓と銅鑼。吶喊。叫び声。悲鳴。
怒声。舌打ち。誰かが投げた手榴弾が爆ぜる。
弾倉を交換する。射撃。そして、射撃。
銃弾が地面を、そして人体をうがつ。岩石に当たって鋭く跳ねる。
薬きょうが砂れきの上を滑って転がり、小石に当たる。
軍靴が草木を踏みしめ、枯れ枝が折れる。
空になった水筒を誰かが蹴飛ばす。
わずかに残った水が水筒の口からこぼれる。


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:36:17.77 ID:W/Ns2wUZ0


そして、鼻からも臭いがなだれ込む。

陣地の人いきれ。汗。血。消毒薬。包帯の脂。
缶詰に残った腐りかけの食料のかす。
硝煙。鉄。熱を持った銃身。
焼けた薬きょうが地表の枯れ草を焼く。
湿った土と乾いた砂。

とっさに片手を耳から放して鼻をつまもうとすると、息ができず口が開く。
湿った生ぬるく埃っぽい空気が肺腑を汚す。
口から鼻にも空気が逆流し再び嗅覚を犯す。そして嘔吐する。
今日、もう何度目だろう。すでに胃液もほとんど出ない。

恐怖による冷や汗と炎天による脂汗で、戦闘服はべったりと皮膚に張り付く。
被った鉄鉢の中は、火鉢のように熱い。軍靴の中も、脂でぬかるみのようだ。

澪は、これでも気を失わない自分を恨めしく思った。
いっそ、気が触れでもした方がどれほど楽なことか。


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:38:34.34 ID:W/Ns2wUZ0


「迫撃砲は何してる!まともな火砲あれしかねぇんだぞ!中隊本部に無線を!」

「無線通じません!迫撃砲が沈黙しているのと関係が…」

さわ子が苛立ちを隠せず怒声を上げると、風子が埃まみれの眼鏡を直して答える。


「そんなこと考えるな!今は撃って撃って撃ちまくれ!」

さわ子は一喝するが、数歩離れた機銃座から、姫子の声が上がる。

「残弾、残りわずか!」

「第3小隊がすぐ隣にいるはずだ!何とか分けてもらってこい!」

さわ子の命令が聞こえた律は、後方に視線を向け、
岩陰で頭を抱えている澪に呼び掛ける。

「澪!澪!弾!弾持ってこい!澪ーッ!お前しか手ぇ空いてねえんだよ!」

「怖いよ…」

「ふざけんな馬鹿ッ!ぶん殴られたいのか!」

「嫌だ!嫌だ!」


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:44:21.66 ID:W/Ns2wUZ0


「…もういい、さわちゃん!私行きます!」

さわ子が“さわちゃん言うな!”と叫んだのが聞こえたのかどうか。

律がそう言い残して、ガクガクとただ震えるばかりの澪を無視し、
弾雨の中を走り出したのと同じ瞬間、
あかねは、双眼鏡の中ににわかに信じがたい光景を見る。

(ロケット砲!?こんな混戦状態のところに打ち込むつもり!?)

しかし、双眼鏡の向こう側からは次々とロケット弾が弾き出される。
あかねは生まれてこのかた最大の声を振り絞って叫ぶ。

「みんな伏せて!カチューシャ!!」


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:45:22.25 ID:W/Ns2wUZ0


「りっちゃんカチューシャ!」

「…は?」

 律は、あかねと唯の叫びの意図を図りかねて、振り向きざまに、
 被った鉄鉢の下にある自分のカチューシャに手を伸ばそうとした。

「違うのよッ!伏せて!」

「お前ら飛び出すな!頭下げろ!」

「危ない!」

 唯と紬が律に飛びかかろうと、そして、
 それを止めようとしたさわ子を姫子が抱きすくめようとした、その瞬間──

                               [第2話 終]


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 11:47:03.31 ID:W/Ns2wUZ0

戦没者慰霊式典中継始まったので見る。ついでに飯。
これ読んでる人いるのか?


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:31:25.80 ID:W/Ns2wUZ0

再開。
※ 当面ここから先は両曲歌詞同様鬱展開につき注意


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:32:34.03 ID:W/Ns2wUZ0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第3話「後送!」をお送りします”



──────────────────────

Karan Casey


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:37:13.58 ID:W/Ns2wUZ0


青い空。白い雲。いい天気だ。

戦争中でなけりゃもっといいんだけど。
去年の夏は、ムギの別荘で合宿してたはずなんだけどなあ…

 「センセ!そのケガ!?」

埃くさいし。汗くさいし。鉄くさいし。風呂入りてー。

 「かすり傷だよこんなの!畜生!落ち着け!被害は!?」

うるせーよさわちゃんいい年して。余計行き遅れるぞ。

 「ぅぐ……ぅう……」

なんか不思議な気分だなあ。

 「痛いよ…」

ムチャクチャ熱いけど、ムチャクチャ寒いぞ。

 「うわぁぁぁぁあああああ!」


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:38:23.91 ID:W/Ns2wUZ0


あー、なんか気持ちよくなってきた。

 「衛生兵!衛生兵!止血!止血を!」

あれ、瀧さんかい?サイドテールほつれてまっせ。

 「まだ息があります!」

つーか空が見えないんですけど。どいて。せっかくいい天気なのに。

 「田井中さん!田井中さん!ねえ!田井中さんしっかり!」

一回呼べばわかるって。一応部長だし、私以上のしっかりものはいないぞ。

 「えぐ…ひっく……うう……」

ったくビービー騒ぐなよお前ら。落ち着け。私みたいに。

 「くそったれぇぇ!お前ら死んだらブッ殺すぞぉぉっっ!」

あーダルい…眠い…


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:40:27.17 ID:W/Ns2wUZ0


さらに後日。

───桜ヶ丘支廠正面玄関昇降口

もはやここは工廠なので、夏休みはない。

私たち生徒が登校、いや、職員が出勤すると、
昇降口正面にある掲示板をチェックすることになっているけど、
真面目に読んでいる人が何人いるのだろう。

重要な告知からどうでもいい連絡まで一緒くたに貼られているから始末が悪い。
いかにもお役所仕事だなあ、と思い愚痴をつぶやく。

 「もう少しなんとかならないのかな、こういうの」

まあ、今や私もお役所である工廠で働いているわけだけど。

『被服原材料の調達に関する公告 ○年○月×日 調達課』

『払い下げ物品の競売に関する公告 ○年◇月×日 戦備課』

『学事消耗品の節約に関する通達 ○年◆月◎日 学事課』

『生産目標の完遂に向けて ○年▲月◇日 生産課』

『傷病兵の受け入れ態勢の整備 ○年▽月×日 医事課』

『花壇の植生保護について ○年▽月×日 管財課』 等々…


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:42:46.22 ID:W/Ns2wUZ0


掲示板に目を沿わせていると、憂、純も出勤してくる。

 「花壇の植生保護……純ちゃん、やっぱりサルビアの蜜吸ってたの?」

 「まあね。もう旬は終わったしノープロブレム。次はムカゴの季節!」

いつもなら呆れてしまう景色だが、私は重要な公告を見つけてしまった。

 「あ」

初めて見る文書のタイトルだ。息を飲んで本文に読み進む。



『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告 ○年▽月×日 兵務課』


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:44:43.74 ID:W/Ns2wUZ0


 “標記の件について、下記のとおり公告する。
                           ○年▽月×日
                           服桜支兵兵第68号
                           兵務戦備局兵務課長 印

      氏  名      所  属    摘  要

    五十嵐甲子    第5小隊    戦傷
    香川  乙女    第4小隊    戦病
    酒田  丙美    第5小隊    戦死
    佐藤    丁    第3小隊    戦傷
    下山  戊子    第1小隊    戦死
    須賀川己子    第3小隊    戦病
    田井中  律    第2小隊    戦傷
    長野    庚    第1小隊    戦死
    西    辛奈    第5小隊    戦傷
    野沢  壬理    第4小隊    戦傷
   菱田  癸子    第1小隊    戦傷
                         (五十音順)以上11名”


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:45:59.09 ID:W/Ns2wUZ0


一瞬、文字の為す意味が分からず最後まで読み進めたあと、
再び読み直して、私の思考は停止した。

 「…これ…って…?」

私のただならぬ様子を見た憂と純が、心配そうに覗き込む。

 「どうしたの梓?」

 「律先輩の名前が…戦傷って…」

 「え…律先輩!?お姉ちゃんは!?」

 「分からない…でも戦死者も出てるし、激しい戦闘に巻き込まれて…」

 「マジで!?うわ、ホントだ!ありえないよこんなの!」


他のクラスの生徒も多く“出勤”してきて、掲示板の周りは人垣ができる。
掲示板の前は、朝の出勤ラッシュと相まって、一時騒然となった。
巡回中の教員が、教室に入るように促す。


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:33:22.38 ID:XxIQAx1H0

読んでるよ


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:47:52.34 ID:W/Ns2wUZ0

>>37 了解。多謝。

作業前の朝のホームルーム。戦死者に1分間の黙祷。

その後、先生から指示があった。
それによれば、本日は生産作業ではなく、医事課の指示で、
元々3年生の教室だった空き教室の一部に病床を設置する作業になるという。

(掲示板にあった医事課の文書って、どこかの兵隊さんが来るんじゃなくて、
 出征した先輩方を負傷兵として受け入れるためのものだったんだ…)

今更ながら、私たちは戦場の後背地、まさに銃後にいるということを、
心から痛感させられ、奥歯がカタカタと鳴った。


空き教室に机を集めていくつか島を作り、その上に、
柔道場からはがしてきた畳とありあわせの布団や寝具を置く。

“今後の需要増加”に合わせて、不足分は戸板などで補う。
1教室につき10台前後の寝台がしつらえられた。

戦場から送り返されるくらいだから、戦線復帰が無理なくらいに、
律先輩は大きなケガを負っているのだろう。
それに、他の先輩方はどうなっているのか。心配は嫌が上にも募る。

(…律先輩が帰還したら、お見舞いしよう。そして、聞くしかない)

私は内心密かに決意した。


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:50:59.26 ID:W/Ns2wUZ0


数日後、校庭に見慣れぬ軍用トラックが止まっているのが目に付いた。

思わず縫製作業の手を止めて視線を向ける。周りのみんなもそうだ。
監督官が注意して作業を再開させる。
士気の低下を恐れてか掲示板には何の告知もなかったが、きっとあれだ。

しかし、名誉の負傷の帰還兵が、隠れるようにして帰ってくるなんて、
本当にむごい仕打ちだなぁ…。


その翌日の昼休み、急いで昼食の芋粥をお腹にかき込むと、
私は意を決して3年2組の教室を目指す。

3年生の教室階は、消毒薬と洗い晒しの病衣や敷布の臭い、
そして傷病兵、つまり3年生の人いきれと咳や呻き声が充満している。
2組に近づくと、甲高く規則正しい打撃音と、抑揚のない歌声が聞こえてくる。

──… …ぅ~ごりらちんぱんじ~さる~ごりらちんぱんじ~…」

3年2組の教室の前。意を決してノックすると、私は返事も待たず扉を開けた。

 「…失礼します!」


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:52:35.84 ID:W/Ns2wUZ0


 「まんなかとおるはちゅーおーせーん…………ぁ」

そこに、律先輩は居た。替え歌と打撃音が止まる。
まだ2組は1人しか後送されていないため、一人きりだ。

教室の後方、ちょうど唯先輩の席があったあたりだろうか、簡易寝台の上で、
白茶けた病衣に、猫背で胡座を組み、右手に箸を持っていた。
その右手の前に、縁が欠けた茶碗があった。叩いているうちに欠けたのだろう。

カチューシャがなく長い前髪が垂れ下がっているため、表情は伺えない。
その醸し出す雰囲気は、さながら幽鬼のようだった。

 「どうも、お久しぶりです…律先輩」

 「ぉぉ…」

律先輩の声には全く生気がない。
私は次の言葉を何と言うべきか迷いつつ近づいた。


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:55:14.08 ID:W/Ns2wUZ0


律先輩の前髪の隙間から覗く鈍く暗い眼差しが、私を突き刺す。

“死んだ魚のような目”なんて、青春ドラマの中だけの表現だと思ってたけど、
いま対峙している律先輩の目は、まさにそれだった。
結局、私は掛けるべき言葉が分からず、思ったことをそのまま口にする。

 「あの…正直言って何から話せばいいのか…」

 「…ロケット砲って、一般にカチューシャっつーもんなの?」

 「い、いえ、厳密には全然違いますが、俗にそう言うことも」

 「ホントそーいうことは先に言ってほしーね。知らない私が悪いのか」

 「まあ、あくまで俗な言い方ですし…」

 「私のカチューシャはカチューシャに吹っ飛ばされてどっか行っちゃったー、と。
  あー、体張ったギャグなのにあんま面白くないね。ははははは」

 「は…はは…」

律先輩の乾いた笑いに合わせて、
私も笑っていいものかと迷いながら愛想笑いをしたが、
律先輩の異変に気付き嫌な予感がした。

てっきり、病衣の中で首から三角巾でも下げているか、
あるいは、懐手でもしているかと思ったが、どうも様子が違う。

 「ついでに腕もどっか行っちゃったよ」


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:58:16.10 ID:W/Ns2wUZ0


私の予感は的中した。
ショックで膝が折れそうになるのを必死に堪える。

病衣の袖のたるみ具合から推察するに、律先輩の左腕は、
二の腕の半ばあたりから欠けている。

浅い溜め息をついて、律先輩は窓の外を見遣る。

 「私も元気なだけが取り柄だったのになあ」

原材料の繊維や樹脂を納品する業者のトラックが、
校庭に轍を作りながらしきりに入れ替わり立ち替わりしている。

 「これからどうしようか。弟には迷惑かけたくないし。
  道ばたで茶碗出してお恵みをーってやるしかねーのか」

そう言って、箸で欠け茶碗を叩く。チンチンと気の抜けた音がする。

 「働くのはもちろん、もうドラムもできないし。こりゃ終わったわ。
  壮行会でちょい鼓笛隊の手伝いしたのが最後のドラムになるなんてなあ…」


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 12:59:55.14 ID:W/Ns2wUZ0


 「か、片腕ならなんとかなりますよ!そんな弱気な律先輩見たくないです!
  茶碗叩いてるくらいならまたドラムやりましょうよ!
  頑張りましょう!他の先輩方もきっと帰ってきます!」

私は自分でも無責任極まりないことを言っているのは認識していた。
それでも、とにかく律先輩を元気づけたかったのだ。

しかし、私はこの発言を深く後悔することになる。

 「…これ見てもまだそんなこと言えるか?」

胡座をかいた膝の上の掛け布団を、律先輩が右手で剥ぎ取る。

 (…ぁ……)

私はよろよろとにじり下がり、後ろにあった寝台にぶつかって、
ようやく自らの体重を支える。

律先輩の左の大腿部には幾重かの包帯が巻かれ、
膝上数センチのところで、唐突に消え失せている。

 「いい加減なことぬかすな!これでどうしろってんだよっ!」

 「…ごめ…ん…なさ…」

 「なんで謝るんだよ!梓は悪くないだろ!よけい惨めになるじゃんか!」


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:02:11.58 ID:W/Ns2wUZ0


律先輩は、欠け茶碗を力任せに投げつけた。
茶碗は右のツインテールをかすめると、床に落ちて割れ砕ける。

 「私が、無事に、帰って…、来れな、かったのが、悪い、のに…ッ」

そう言って、律先輩はさめざめと涕泣する。

騒ぎを聞きつけた看護師2名が、ノックもせず、一言も発さずに部屋に入ってくる。

その一人がつかつかと歩み寄ってその右腕を掴んだかと思うと、
もう一人が間髪入れず首筋に注射を打つ。

 「ぁ」

鎮静剤か何かであろう。律先輩はたちまち寝台に崩れ落ちた。


 「2年か。持ち場に戻りなさい」

看護師の一人が、私に言い捨てて教室から出て行く。

私はしばし呆然としていたが、
すでに昏倒している律先輩に対して一礼すると教室を後にした。


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:04:20.57 ID:W/Ns2wUZ0


2年の教室に戻ると、憂と純が私と目を合わせるが、
私の表情が相当沈鬱なものだったのだろう、
二人とも戸惑いの表情を浮かべたまま一言も発しない。

その表情を察して、私は二人にようやく話し掛ける。

 「…ごめん、憂。律先輩から何も聞き出せなかった」

 「ううん、気にしないで。やっぱりケガはひどかったの?」

 「ケガというより、片腕と、片脚が…」


私にはそれ以上何も言えなかった。
憂も純もまた、何も言わなかった。

                           [第3話 終]


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:09:43.48 ID:W/Ns2wUZ0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第4話「傷病兵!」をお送りします”


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:12:01.48 ID:W/Ns2wUZ0


数日後、私は憂を連れて再び3年2組の教室を訪れる。
無着色エボナイトの真っ黒なカチューシャを持って。

 「梓、何しに来たんだよ、それに憂ちゃんまで。笑いに来たのか」

 「いえ、律先輩にこれを持ってきました」

 「…へえ、被服廠って、こんな小物も作ってたのか」

カチューシャを思いのほか感心して眺めている律先輩の問いに、
憂が若干の戸惑いを浮かべつつも微笑んで応じる。

 「梓ちゃんが検品でハネられた中から拝借してきてくれたんですよ」

 「被服廠の数少ない役得なんですから、受け取ってください。
  カチューシャは、律先輩のトレードマークですからね」

私が律先輩の前髪をかき上げて額にカチューシャをあてがうと、
やっと、律先輩ははにかみを浮かべた。

 「ありがと。…この前は、すまなかったな」


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:13:26.99 ID:W/Ns2wUZ0


他の先輩方の消息をようやく訊くことができた。
しかし、詳しくは知らないという。

律先輩が負傷した戦闘では、他にも多数の死傷者が出たようだが、
後送順序や負傷の治療状況が違うので、今回の後送者で終わりではないようだ。

 「あの告知は私も最近知ったけど、私がケガする前の死傷者も混ざってたし」

 「そんな…、じゃあお姉ちゃんも無事とは限らないんですか!?」

 「悪いが、きっと私だけじゃないぞ。…梓、憂ちゃん、覚悟はしとけ」


さらに数日後、律先輩の憂慮は現実のものとなる。


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:15:00.42 ID:W/Ns2wUZ0


『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告 ○年▽月●日 兵務課』

 “標記の件について、下記のとおり公告する。
                           ○年▽月●日
                           服桜支兵兵第75号
                           兵務戦備局兵務課長 印

      氏  名      所  属    摘  要

    愛川  甲美    第4小隊    戦傷
    秋山    澪    第2小隊    戦傷
    衛藤  乙子    第3小隊    戦傷
    加賀屋丙理    第3小隊    戦死
    琴吹    紬    第2小隊    戦傷
    嶋野  丁子    第1小隊    戦死
    瀬戸口  戊    第4小隊    戦傷
    手島  己奈    第5小隊    戦傷
    野田    恵    第1小隊    戦病
                         (五十音順)以上9名”


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:17:30.41 ID:W/Ns2wUZ0

少し早めに出勤したはずなのに、掲示板の前で長い時間固まっていたのだろう、
憂と純に背後から声を掛けられた。

 「おはよう、梓ちゃん」

 「どうしたの梓?」

返事のできない私の目線を、二人が追う。その先にはこの文書。
憂は言葉に詰まり、純までもがその文書の内容を直視できずにいる。

 「……澪先輩や紬先輩まで…。お姉ちゃんはどうなったの…っ」

 「はは…ウソ、ウソでしょ?ねえ梓?」

ホームルーム開始のチャイムが鳴り、心配した担任に呼び寄せられて、
ようやく私たちは教室に入る。憂はそのまま医務室に連れていかれた。

私も作業が手に付かず、樹脂を金型から打ち出すとき、指を挟みそうになった。
純は、成型器に指先を挟んで爪を割ってしまった。


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:21:41.99 ID:W/Ns2wUZ0


その後、ようやく落ち着きを取り戻した私は、律先輩のときのように、
数日間、軍用トラックの到着を注意深く観察していたが、その気配はない。

昼休み、もさもさした豆ご飯を頬張りながら三人で小声で話す。


「そういえば、純も憂も最近軍用トラックとか見てないよね?」

「確かに、最初の後送のときみたいに来てないね」

「私もお姉ちゃんの消息が気になるから、一応気にしてたけど見てないよ…」

─────────────────────

De Dannan & Mary Black


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:23:01.34 ID:W/Ns2wUZ0


その翌々日の朝、私は、一本の真新しい車両の轍が、
原料製品搬入口とは異なる方向に伸びているのに気付いた。

(前回の後送の騒ぎを再発させないように、始業前に運んだ…?)

そう思った私は、昼休みに、3年2組の教室に赴く。

3年生の教室階に足を踏み入れると、例の臭いが充満している。
そぼ降る霧雨が、その臭い、そして病室の陰鬱さを引き立てる。

そして、明らかに、各教室から漏れ聞こえるざわめきが増している。
間違いない。すでに、新たな後送者は来ている。

2組の前まで来ると、中からぼそぼそと低い話し声が聞こえる。
律先輩独りだけなら話をするはずもない。
やはり澪先輩とムギ先輩も帰ってきてるんだ。

再会の喜び1割、不安9割といった心境のまま、思い切ってノックし教室に入る。

「…失礼します、こんにちは」


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:25:14.90 ID:W/Ns2wUZ0


 「その声は梓か?」

 「あっ、梓ちゃん」

 「おす、梓」

寝台の上にあぐらをかいている律先輩が右手を軽く挙げる。
その寝台の周りにいる、紬先輩と澪先輩がこちらを振り向く。
三人とも同じ病衣を着ている。

紬先輩だけ椅子に掛けている。顔を一見してもだいぶ痩せたように見える。
つややかだったはずの金髪も、その輝きの衰えは隠しきれない。

窓枠に軽くもたれている澪先輩も、負傷の治療などで支障があったのか、
長く豊かだった黒髪は、律先輩の髪と同じくらい、ばっさりと短く切られている。
代わりに、その黒髪とお揃いのような黒いサングラスを掛けている。

 「澪先輩、ムギ先輩、お久しぶりです。帰ってたんですね。掲示板に告知が…」

律先輩が言う。

 「二人とも、今朝帰ってきたばっかだよ」


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:26:35.51 ID:W/Ns2wUZ0


私は、教室の敷居をまたいで、さらに三人に近付いて気付く。

紬先輩が腰を掛けているのはただの椅子ではない。車いすだ。
膝掛けのブランケットの裾の下には、本来は見えるであろう足が見えない。
正確には、もはや存在しないのだと思う。

 「あっ、ご、ごめんね梓ちゃん、びっくりするわよね」

 「いえ、その…すみません、正直、驚きました」

 「見て分かると思うけど、…なくなっちゃったの」

律先輩のときと違って極力自然体になるよう心の準備はしていたはずだが、
私の顔にはしっかり戸惑いの色が出てしまっていたのだろう、
紬先輩が私に謝る。謝る理由はないのに。



次いで、私は澪先輩に視線を移す。

(髪の毛を切らなきゃいけないようなケガを負ったのかな…
 でも目立った外傷はなさそうだし…)

そんなことを考えながらしげしげと澪先輩を見つめるが、気付く気配がない。


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:28:22.64 ID:W/Ns2wUZ0


見かねた律先輩が助け船を出す。

 「おい澪。梓が何か聞きたそうだぞ」

 「ああ、ごめん。気付かなくってさ。何だ?」

 「あの、澪先輩は…」

私が言葉を慎重に選んでいると、律先輩が口を挟む。

 「気付かないじゃなくて、見えない、だろ」

 「律、先に言うなよ」

 「それって…」

私が質問するより早く、澪先輩はサングラスを外し、まぶたを開ける。
雨天の屋内でサングラスをしている時点で気付くべきだった。

薄明かりの中、両目の眼窩の暗闇に吸い込まれそうになる。
私は思わず息を飲む。

 「ごめんな。驚かせたか?見てのとおりだよ。ロケット弾の破片で。
  今度、義眼を作ることになってるんだ」

 「…そうですか」

我ながら気の利かない受け答えだと思ったが、
この状況で気の利いた受け答えができる人間がどれだけいるだろうか。


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:31:08.05 ID:W/Ns2wUZ0


私は気を取り直して、話を進める。

 「あの、唯先輩の消息はご存じないですか?
  憂もすごく心配して取り乱してるので、手がかりだけでも…」

 「申し訳ないんだけど、私たちも知らないの…」

 「私とムギも、病院は別で、トラックに詰め込まれて初めて再会したくらいだし」

 「でもすでに学年の約1割が戦死傷だからなぁ。唯も無事かどうか…」

やはり、唯先輩の安否の手がかりはない。
軍事情報がダダ漏れになるはずもないから、当然といえば当然か。

しばらく話していると、澪先輩から、誰にともなく頼みが出る。

「ごめん、ちょっとトイレ行きたいんだけど、誰か付き添ってくれるかな。
 白杖だけじゃどうにもならないよ。まだ慣れてないし」

「んじゃ久々にツレションしますか!代わりに澪の肩貸してくれ。
 こういうときでもないと部屋の外に出ないしな」

答えた律先輩は寝台から右足を下ろす。
寝台の脇には義手や義足が置いてあるが、付ける様子はない。
私はそれらに目を向けながら質問する。

「あの、こういうの付けなくて大丈夫なんですか?」

「レディーメイドの補装具って重いし暑いし、付けたり外したり面倒だしさ」


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:33:20.74 ID:W/Ns2wUZ0


「そのうちちゃんとオーダーメイドで作りたいわね」

「…そんな金どこから出るんだよ」

ムギ先輩の何気ない一言に、自嘲気味に答えた律先輩は、
他の寝台や澪先輩の肩につかまって片足跳びしながら、教室のドアに向かっていった。

「ドアの取っ手、10センチくらい左」

「ん、このへんか?」

「あーもう行き過ぎ行き過ぎ」

二人羽織のようなやりとりを数回繰り広げて、二人は出て行った。
私とムギ先輩だけが残される。

「…梓ちゃん、本当に、ごめんなさい、本当に。こんなことになっちゃって」

「…いえ」


(なんで謝るんですか!先輩方は悪くないのに!)

本当は、この前、私自身が律先輩から言われたような言葉を返したかったが、
かつての鷹揚でおっとりした雰囲気は消え失せ、卑屈な苦笑を浮かべながら、
上目遣いに話しかけてくるムギ先輩の姿を見ていると、
そんな気力さえも萎えてしまった。


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:35:12.45 ID:W/Ns2wUZ0


すると、廊下から大きな物音が響く。

気になって教室のドアから様子を見ると、
少し先で律先輩と澪先輩が折り重なって倒れている。

「だ、大丈夫ですか!?」

「…いたたた。盛大に転んだなぁ」

「痛っ…梓か?そのへんに白杖ないか?」

「二人とも無理しないでください。立てますか?」

私は、右肩に澪先輩の左手をかけ、左肩を律先輩に貸して、
廊下をゆっくりと歩いた。

私は二人のやりとりを黙って聞いていた。

「あはは、義足なしじゃ一人でトイレも行けないからって、横着するもんじゃねーな!
 義手はともかく義足くらいつけてくりゃよかった、ははは」

「ふう、一人どころか二人でもトイレにさえ行けないじゃないか。情けない」


65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 13:36:47.25 ID:W/Ns2wUZ0


徐々に、二人の声が震えてくる。

「ホントになぁ。後輩に文字通りおんぶにだっこ状態だよ。情けないよなぁ」

「私は情けないし、腹立たしいし、申し訳ないし、悔しいぞ」

「…澪、お前、怒るかもしれないけど、ちょっとだけ、うらやましいよ。
 もう、悔し涙も、出ないんだろ。その目。はは、ははは」

「律ぅ、ふざけたこと、言わないでくれよ。一応、涙腺は、生きてるんだぞ…」


実際、長い時間がかかったのだけれども、
トイレまでの十数メートルが、恐ろしく、いや、悲しくなるほど長く感じられた。

私は、澪先輩のサングラスの陰から、一筋の体液が流れるのを見た。

二人がトイレに入っている間、私はそのむせぶ声を聞きながら待っていた。


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 14:03:44.53 ID:W/Ns2wUZ0


「…梓、3年2組行ったんでしょ?どうだった?」

昼休みの終わり間際、教室に戻ると、純が私に問う。
憂と純には、3年2組の教室に行くことは伝えていなかったが、
私の顔色からあっさりとバレてしまったようだ。

「澪先輩も、ムギ先輩もいたけど…。目とか、足とか…」

「そっか、そうだよね。後送されるくらいだもん、ね」

純が、日頃の明るさとは打って変わって気詰まりな声を出すと、
憂が、あきらめ混じりに、私に問いかける。

「やっぱり、お姉ちゃんのことはわからないよね?」

「うん…、ごめんね。憂」

「仕方ないよ。誰のせいでもないもの…」

そう。誰のせいでもないのだ。

なのに、なぜこんなことになったのか。そう嘆かずにはいられない。
この日の天候以上に、私たちの心は暗く塞いだ。

                            [第4話 終]


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 14:06:31.09 ID:W/Ns2wUZ0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第5話「外泊許可!」をお送りします”



─────────────────────

Johnny Horton


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 14:09:24.26 ID:W/Ns2wUZ0


ある週末。

容態の安定した傷病兵に外泊許可が下りた。
────────────

琴吹紬の場合。

 「…お久しゅうございます、お嬢様」

そう言って深々と礼をする斎藤の頭髪には、
わずかな月日の合間に、目立って白いものが増えた。

幼い頃から陰に日に付き従ってきたこの老執事は、
今の私の姿を見て、どのような心境なのだろうか。

 「…斎藤も、お疲れさま」

 「さ、あちらに車を回しておりますので」


斎藤に車いすを押され、私は車寄せへと向かう。


69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 14:10:49.84 ID:W/Ns2wUZ0


車道は閑散としており、車は滑るように走っていく。
時折、トラックや軍用車の車列とすれ違う。

(“ガソリンの一滴は、血の一滴”…か)

ガソリンが配給制となってから、自家用車の姿はめっきり減った。

 「お父様とお母様は?」

 「旦那様は、軍当局との緊急の折衝で盛岡の砲兵工廠に行かれました。
  奥様は夕食までにはお戻りになる予定です」

 「そう…」


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 14:12:55.09 ID:W/Ns2wUZ0


夕食。

お母様が、再会の喜びを表し、労をねぎらう。
動揺の色を少しでも悟られまいと気を遣っているのがわかる。

 「紬、おかえりなさい。大変だったでしょう?」

 「ええ…」

気乗りのしないまま、ひと口、ふた口、
私の帰宅のために、シェフが腕によりをかけて作ったであろう、
豪勢な夕食をついばむように口に運ぶ。


丁寧に裏ごしされたヴィシソワーズ。
新鮮な生野菜と白身魚のマリネ。
ハーブの利いた肉汁の溢れる若鶏のコンフィ。
なめらかでとろけるように甘いブラマンジェ。
もちろん食後には紅茶も砂糖もあるはずだ。

 「あの人も楽しみにしていたのだけれど盛岡に…」

私はお母様の言葉を聞いて、ナイフとフォークを止める。

 「本当かしら。娘に合わせる顔がないのではなくて?
  聞いたわ。砲兵工廠に行かれたそうね。
  先週は、福島の航空工廠に。その前は舞鶴の造船廠。
  …お父様は、やはり生粋の“死の商人”ね!」


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 14:13:56.17 ID:W/Ns2wUZ0

私は、車いすを超信地旋回のように鋭く翻して、食卓を後にする。

 「紬っ!」

母の叱責を背中に聞きながら、私は大食堂の外に車いすを駆り立てる。



籠の鳥のごとく無批判に両親の庇護を受けてきた私も、
高校生になってからは、人並みに葛藤を感じるようになっていた。

両親との関係を決定的に変える契機になったのは、
琴吹家の事業が軍需産業への傾斜を強めて巨利を得る一方、
両親が私を徴兵免除させるべく政官界に手を回していることを知ったことだ。

人の親の情けの常とはいえ、私には決して許し得ないことだった。
私は激怒し、両親を激しく非難したが、
生まれて初めて、お父様に頬を張られ、お母様に親不孝者と罵られた。


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 14:15:10.20 ID:W/Ns2wUZ0


結局、私は、自らの意志で軽音部の仲間と同じく徴兵に応じた。

徴兵が決まってから、軽音部の仲間に悟られぬよう、
放課後のお茶とお菓子を徐々に減らしていった。

本当は、お茶もお菓子も手に入れようと思えば、いくらでもできた。
でも、私はそれらを敢えて手に入れなかった。

それが私の意志であり、義務でもあった。


両親と同じような人生は歩みたくない。
その思いは、戦地に赴いてから、一層強くなった。

傷つき倒れていく兵士たち、学友たち。

一口でいい、水が飲みたい、甘いものが欲しい。
いまわの際、うわごとのように呟きながらその声が途絶えていく。

そんな光景を目にしながら、どうして私一人が、
安寧をむさぼることができようか。

今こうして生きているだけでも居たたまれないほどなのに。


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 14:16:36.81 ID:W/Ns2wUZ0


そして私もまた、負傷し、後送された。

これが“一般庶民”であれば、名誉の負傷と言われる義理もあるだろうが、
しかし、琴吹の人間である私にとっては当然の報い。自己満足でしかない。

こんなことなら、世間から後ろ指を指されても、親にすがって、
軽音部の仲間たちも含めて、徴兵逃れさせればよかったのではないか。
私一人の意地のため、かけがえのない友を犠牲にしたのではないか。
そんな疑念さえ、じわりと心底から染み出てくる。

そう感じると、軽音部の仲間に対してすら卑屈になってしまう。
そんな自分の卑屈さを悟られまいとすると、余計仲間に対して壁を感じる。

結局、親への身命を賭した反抗すら、
どんなに反抗しても琴吹の血との縁は切れない、という
予定調和の秩序への依存があるからこそだ。

傲岸不遜なる内弁慶の外地蔵。


今この瞬間も、琴吹のカネの源泉は、軍に納めた兵器類。
級友たちを危険にさらし、その生き血をすするも同然の所業だ。
ゆえに、この身の血肉は、そのまま、他の誰かの血肉でできている。

そう考えると、急激に猛烈な嘔吐感がこみ上げる。


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 14:18:54.90 ID:W/Ns2wUZ0


洗面所で、先刻申し訳程度に口にした晩餐を跡形もなく嘔吐すると、
自然と、私はあの部屋に向かった。
少しでも、この罪悪感を紛らわせたかった。

窓から差し込む月光の薄明かりの中で、
以前と変わらず、グランドピアノと、そしてキーボードがたたずんでいる。

(ペダルも踏めなければピアノはままならないけれど、キーボードなら…)

そう思ったが、それ以上に、今や所詮こんなことは金持ちの道楽に過ぎない。
そんな思いが募り、車いすを進めるのを止めた。


薄暗い室内にたたずんでいると、背後に人の気配を感じた。

 「やはり、ここでしたか」

 「…斎藤、私が決めたことは、誤っていたのかしら」

 「………それもまた、お嬢様が決めることでございましょう」

 「そう、ね。こんなことを訊くこと自体、甘えでしかないわよね」

青白い月の光が冷たく差し込む部屋の中で、
車いすの上、掛けるべき膝を失った膝掛けに、涕泗がにじんだ。


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 14:21:33.32 ID:W/Ns2wUZ0


秋山澪の場合。


貴重なガソリンを使って、ママが自動車で迎えに来てくれるみたいだ。
確かに、かつて通学路であったとはいえ、白杖だけで家路につく自信はない。

昇降口で待つ。
なるべくみすぼらしくならないよう、前髪や服の裾を整えるが、
いかんせんどうなっているのか確かめる手立てがない。

義眼を入れているので、見た目で極端に驚くことはないと思うけど…
緊張に満ちた漆黒の視界の中で、神経を研ぎ澄ませる。

足音が近付き、目の前で止まった。そして、懐かしいママの声。

 「お帰りなさい。澪。髪、切ったのね」

 「迎えに来てくれてありがとう、ママ」

 「…私はこっちよ」

 「ごめん。……見えなくて」


微妙にズレた角度に挨拶をしていたらしく、ママにたしなめられる。
目のことはあらかじめ伝えていたことだったから、
隠すつもりもなかったが、やはりショックだ。


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 14:46:57.58 ID:Pp9aPJR0O

なんだこれ


78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 15:18:30.43 ID:W/Ns2wUZ0

さるさんだった
ブラックラグーンのEDで久々に聞いてふと考えた
両曲について下記にて詳述されているのでお好みでご一読
http://pointex.biz/initial/archives/2009/12/240844395011
http://d.hatena.ne.jp/muffdiving/20090617/1245170333


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 15:19:50.70 ID:W/Ns2wUZ0


白杖で地面を叩きつつ、ママに手を添えられて歩く。
自動車に乗り込むとき、車体に側頭部をぶつけてしまった。

皮肉なものだ。戦場ではあれほど疎ましかった視覚がないと、
一人ではどこにも行けない。当然といえば当然のことだけど…

 「今日は、ブリ大根にするからね。白いご飯もあるから」

 「へえ、魚があるんだ。楽しみだな。工廠では雑穀が多くて」

お互いに平静を装っているが、久々の再会も相まって、
不安のさぐり合いをしているかのようだ。


久しぶりに家に着く。とはいえ、家の姿を確かめることはできない。
しかし、独特の香りが、自宅に到着したことを実感させてくれた。

 「大丈夫なの?」

 「大丈夫だよ。この家でずっと過ごしてたんだから。ご飯ができたら呼んで」

夕食まで時間があるので、ママの心配をよそに自室を目指す。
玄関から、記憶の中のだいたいの距離感を頼りに、おずおずと歩く。
階段の段数など意外と覚えていないものだ。


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 15:22:49.97 ID:W/Ns2wUZ0


自室と思われる部屋に着く。部屋の家具の配置からすると間違いないだろう。

 「机がこのへんでその上にパソコンが…」

手でまさぐりながら確認する。PCの電源ボタンを探して押す。
起動音がして、ハードディスクの回転音がする。

 「ちゃんとしたドキュメントリーダとか買わないとな…」

もちろんこのままの状態では、PCを満足に扱うことなどできないだろう。
それでも、勘を試してみたかった。

 「ふふ、文字通りブラインドタッチだな、これは。
  あ、今はそう言わないんだっけ」

そんなふうに苦笑して、キーボードに手を載せる。
ハードディスクの回転音と振動が収まるのを待つ。

ひとまず軽音部の練習を録音したファイルでも再生してみようと、
初期のカーソル位置から推測して、慎重にキーを押すが、すぐに行き詰まる。
不愉快なエラー音がして、完全に見当が付かなくなる。

 「…パパが帰ってきたら、手伝ってもらおう」

実際には全部やってもらうことになるだろうと思うと、やるせなくなる。
電源ボタンを押して強制終了したPCからの音が消える。


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 15:24:09.21 ID:W/Ns2wUZ0


手持ちぶさたでベッドに横になる。

階下からはほのかに、ブリの生臭さ、醤油、みりん、砂糖などの香りが漂ってくる。
貴重な魚と調味料を、私のために用立ててくれたのだろう。

外からは、鳥の鳴き声、虫の声がする。
時折、自転車のベルの音や、郵便受けがカタと鳴る音が近付き、また遠ざかる。

 「夕刊を配る音か。郵便配達はもっと早い時刻のはずだし」

時間を知る術さえも、聞こえる音と、自分の腹時計くらいしかない。
もっとも、最近は常に空腹気味なので、腹時計はあてにならないが。


 「…ベース、あるのかな」

私はふと、そんな思いを抱く。

記憶を頼りに、いつもベースを置いていた場所をまさぐるが、
探し当てることができない。

私は、やや大きな声で階下で夕食の準備をしているはずのママに問いかけた。

 「ママー、ベース知らない?」

 「部屋にあるわよー」

そう。この漆黒に閉ざされた部屋のどこかにあるはずなのだ。
私には、わずか十数平米の自室が、茫漠たる異境の荒野のように感じられた。


82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 15:25:28.95 ID:W/Ns2wUZ0


せいぜい5分くらいか。いや、数十分か。それもよく分からない。
私は汗だくになって、悔し紛れに部屋中をさまよい歩き、はいずり回る。

 「どこだよ…どこにあるんだよ…っ」

机やベッドの角に頭をぶつける。
壁や家具にぶつけた指の爪が割れる。
本棚やサイドボードから小物が倒れて落ちる。

再び頭をぶつけた衝撃で、ずれた義眼の位置を直していると、
階下から、ママの声がした。

 「あ、そうそう、あなたが帰ってくるから、
  少し部屋を掃除してクロゼットの奥に…
  ! ……ご、ごめんなさい!!澪!澪っ!」

鷹揚な呼び掛け、次いで、叫ぶような謝罪の声、
そして階段を駆け上がる足音が聞こえてくる。

(なんだ。ここには初めからなかったのか。気付かないなんてバカだな)

そう思った瞬間、本来の機能を失ったその両目に残された唯一の機能が起動する。
偽りの眼球を嵌め込まれた眼窩から、私は涙腺すら枯れるほどに滂沱した。


83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 15:27:31.90 ID:W/Ns2wUZ0


田井中律の場合。


おっしゃ!

後送後初めての外泊許可。病衣を脱ぐのも久々だ。
聡が迎えに来てくれる予定。……もちろん不安はある。

 「おう聡!元気してたか~?」

病室で待ちきれず昇降口で待ちかまえていた私の目に、聡の姿が映る。
私はわざと左腕の義手を大きく振って聡を迎える。

一応、事前に伝えてはいたものの、
至近距離でいきなり義手義足を見せられてはショックを受けるだろう。
多少はそれを和らげられるといいのだが。

 「…姉ちゃん、お帰り!荷物持つよ」

 「ありがと。持つべきものは良き弟だねぇ~」

できた弟だよ。ホントに。


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 15:27:39.22 ID:gcH2xV95O

ペース早いけどよそのスレにでも書き込まないとさる食らうよ


86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 15:36:08.84 ID:W/Ns2wUZ0

>>84 了解。助言深謝。
------------

家への道すがら、いろいろ話す。
せっかく週末に帰宅だというのに、両親とも仕事でいないらしい。

 「姉ちゃんが帰ってくるから、今日は俺が晩飯作るよ!」

 「お前そんなに料理できた?何作るんだよ」

 「なんと玉子丼!」

 「うっそ!マジで!?鶏卵?エッグ?貴重品じゃんか!」

 「ご飯もたっぷりあるよ」

 「雑穀や麦飯じゃないよな!銀シャリ?白米?ホワイトライス!?」

 「もちろん!卵余ってるから、目玉焼きにでもする?」

 「んじゃあ、私が茶碗蒸し作ってやるよ。今日は卵パーティーだ!」


ったく、知らない間にまた少し大きくなっちゃって。
それでもゆっくり歩いてるつもりだろうけど、
この足でお前と歩調合わせるの結構きついんだよ。


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 15:38:28.79 ID:W/Ns2wUZ0


久しぶりに自宅の敷居をまたぐ。
リビングのソファに腰を下ろすと左腕の義手を外し、
荷物を持ってウロウロしている聡の後頭部にお見舞いする。

 「ロケットパァーンチ!」

 「痛って!マジでシャレにならないから!」

 「はっはっは!私はサイボーグとして生まれ変わったのだよ!」

聡もこの様子なら大丈夫だろう。
茶碗蒸しの出し汁の準備に取りかかる。片手で何とかなるだろ。
しかしいつの間に玉子丼の作り方なんか覚えてくれたのか。嬉しいねえ。


88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 15:39:51.08 ID:W/Ns2wUZ0


 「あ、レンゲ取って。じゃあいただきまーす!」

 「いただきまーす!」

感傷は抜きにして、久々の親子丼はマジ旨い。白米との相性も抜群。
茶碗蒸しもブランクがあったわりには上出来だ。

テレビが自由に見られるのも自宅ならではだ。
本当は御上のお達しで電力節約のため1日2時間しか見ちゃいけないらしい。

“おいらはドラマ~、やくざなドラマ~…”

CMを見ていたら、思わず箸で丼のふちを叩いていた。

 「姉ちゃん、行儀悪いぞ」

 「お、すまんすまん」

……やっぱり未練があるのかね。


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 15:42:43.99 ID:W/Ns2wUZ0


風呂を沸かしてもらったので、入ることにした。
ずっとシャワーばかりだったから、湯船に入るのは楽しみだ。
さて、左の義足も外したまではいいが、どうやって入ったものか…

片足跳びで湯船の縁に腰掛けて、慎重に、右足を湯船に入れて、
と思っていたら、派手に踏み外した。

 「ぶふぉっ!…げほ!」

せっかく九死に一生を得たのに、風呂で溺死とか、間抜け過ぎる。
赤髭フリードリヒ1世じゃねーんだぞ。お、私インテリ。

何とか体勢を立て直すが、風呂の派手な波音を聞いて、聡がドアを開ける。

 「おい!姉ちゃん大丈夫か!?」

 「バッカヤロ!覗くな!」

聡に洗面器を投げつけて追い払った後、しばらく湯船でくつろぐ。

(はー極楽極楽、って、極楽にはまだ早いな)

水面下に視線を移すと、自分自身の欠けた裸体がゆらいでいる。

(これから、私の人生どうなる…ってか、どうすんだよ?どうできる?)


90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 16:09:35.04 ID:XxIQAx1H0

またか?


91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 16:16:37.26 ID:W/Ns2wUZ0

>>90 すまん。言われたそばからさるだった。
--------------------

鼻まで湯に浸かってブクブクしていると、また聡の声が聞こえる。

 「姉ちゃん、背中流そうか?」

 「エロガキ。自分でやるよ」

 「無理だろそれ。あと右手で右手とか絶対洗えないし」

 「……じゃあいいよ。ただし見るなよ、絶対見るなよ!」

聡に背中を流してもらう。
一緒に風呂に入るのは小学校のとき以来だろうかなあ。
右腕も洗ってもらう。まんざらでもないがやはり恥ずかしい。

聡がおもむろに口を開く。

 「姉ちゃん、これからは何かあったら俺に言ってくれよ」

 「心配すんな。身の回りのことは一通りできるから」

 「でも本当に必要なときは遠慮すんなよ」

 「…ありがと。気持ちだけもらっとくわ」


92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 16:22:36.88 ID:W/Ns2wUZ0

風呂をあがった後、私は自室に入った。
出征前と変わらぬ室内は、きれいに掃除が行き届いている。

 (確かこのへんに…)

私はドラムスティックを手に取った。もちろん、一本だけだが。
積んである雑誌の束を一度だけ叩く。利き腕が吹っ飛ばなくて良かったと思う。

しかし、残されたもう一本のスティックを眺めれば、それだけで胸が疼く。
出征前に自宅に引き上げたドラムセットも、
どこかにしまってあるはずだが、今の私には直視する勇気はない。

 (どうか、もう一度…)

自宅に帰る道すがら密かに抱いていた、砂糖のように甘く湿った感傷は、
瞬く間に塩に変わって潮解し、その露が両眼から溢れる。

 「…やっぱ、無理だ、な」

私はそのままベッドに片足跳びで飛び込み、そして、枕を濡らした。

                                 [第5話 終]


93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 16:32:34.56 ID:W/Ns2wUZ0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第6話「組織編成!」をお送りします”


94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 16:36:01.72 ID:W/Ns2wUZ0


残暑も和らぎ秋の気配も漂い始めた頃、支廠の組織変更があった。

生産能力逼迫の折、労働力を少しでも多く確保するため、
後送された傷病兵──つまり先輩方──も再び動員体制に組み込まれる。

“軍需生産局検査課第32検品室”

これが、旧3年2組所属の傷病兵の動員先として新たに設けられた。
とはいえ、3年2組の傷病兵は、まだ軽音部員の3人しかいない。

そして、第32検品室にあてがわれたのは、あの部屋だった。
私と、検品員である先輩方は、検品室へと入る。

 「…こんな形で部室に戻ってくるとはねぇ」

律先輩が感慨深げにつぶやくと、澪先輩とムギ先輩も言葉を漏らす。

 「よろしく頼むぞ、律。いや、田井中室長殿!」

 「でも、この部屋に来るの大変なのよね。階段が、ちょっと…」

 「先輩方、私、何でも手伝いますから。この検品室の専属連絡員になったので」

どうやら、生徒会長が学事課長として裏で少し手を回してくれたらしい。
最近、正直言って良い噂は聞かないけれど。
中には“自分一人が助かるために、同級生二百人の命を売った”って噂まで…


95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 16:42:39.24 ID:W/Ns2wUZ0


以来私は、午前の作業時間を、作業室と検品室を往復して過ごすことになる。

作業開始後、病室に先輩方を迎えに行き、検品室である部室まで連れて行く。
特にムギ先輩と車いすを上り下りさせるのが一苦労なのだが、
ムギ先輩を背負うと痩せた上に両足の分の体重が減っているのよくわかった。

そして作業室で作られた製品を検品室に持って行く。
衣類や皮革製品の針の残留検査や、縫い目やボタンの点検、
樹脂や金属小物のバリ取り確認などをしてもらう。



 「これ、昨日生産された分です。納期は今日中でお願いしますね」

活動の内容は全く変わってしまったけれど、この部屋で、軽音部員だった面々が、
再び顔を合わせることができるだけでも、私はささやかな喜びを感じていた。

でも、“便りのないのは良い便り”とはいうものの、
唯先輩は、いまだに帰ってこない。


96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 16:46:54.30 ID:W/Ns2wUZ0


──桜ヶ丘支廠会議室

 「…兵務戦備局からの報告事項は以上であります」

 「ずいぶん多いなぁ」

 「連隊全体では全滅ないしは壊滅状態と聞き及んどります。
  再編成も時間の問題でしょう」

兵務戦備局長の報告に、支廠長が渋い顔をする。

そこに軍務課長が口を挟むと、当て擦られた調達課長がわざとらしい咳払いをする。

 「まあ低い練度と貧弱な装備を考えれば頑張ったほうでしょう。
  もう少し教練に時間が取れれば違ったかも分かりませんが…」

 「…ゴホン」


副支廠長がオールバックをなで上げながら発言する。

 「こりゃ予定を繰り上げないといかんなあ。
  でも、まだ上から正式な通達は来とらんのだろ、兵務課長?」

 「は。しかし、内々には、近々年齢引き下げを決定する予定と言われてまして…」

 「では即座に対応できるよう、予備検査を実施しておこう」


98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 16:52:03.79 ID:W/Ns2wUZ0


生徒会長、いや、学事課長である私は、手元の会議資料を見る。
この数字と文字の羅列の裏で、どれほど多くの学友が傷つき失われたのか。
内心穏やかではないのだが、今は感情よりも思考を優先させねばならない。

軍需生産局から、徴兵への対応について難色を示す意見が出る。

 「しかし、軍需生産の主力である二年生が抜けると、生産計画の下方修正は必至ですゾ」

 「調達課としても、傷病兵の労働力化に時間がかかりますので、
  三年生の中隊全体が後送されてから、引継ぎなどを行う猶予を頂きたいところです」


私はタイミングを捉えて意見を述べる。

 「…軍需局のご意見はごもっともと思います。
  兵務局のお立場としても、徴兵に迅速に対応すべきというのは理解しますが、
  ある程度、訓練と戦備を充実する時間を設け損耗を抑えることも必要では?」

 「ふむ、学事課長の意見ももっともだ。徴兵の予備検査は早急に行うとして、
  生産計画にも配慮し時間的な余裕を持って進めよう。
  では定例廠議は終了する。解散!」


99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 16:53:48.40 ID:W/Ns2wUZ0


支廠長が宣言をして、会議は解散となる。
解散後、軍需生産局長が軽く会釈して小声で話しかけてくる。

 「先ほどは援護射撃をどーも。堅物の学事課長が珍しいですナ!」

 「…どういたしまして」

生産計画の未達成など、私にはどうでもよいことだった。
それは、軍需生産局が責任を取ることなのだから。

私は、ただ、引き裂かれた先輩と後輩同士が、
いま一度顔を合わせる時間を作ってやりたかった。それだけだった。

(今生の別れになるか否かも分からないのに、
 すれ違いで帰還と出征なんて、寂しすぎるじゃない。

 まあ、そんなセンチメンタルな意図、悟られないほうが好都合だわ。
 恐らく、そんな意図は誰も察してはくれないでしょうけど…)

そう思いながら、私は誰にも悟られぬよう、小さく苦笑しながら嘆息した。

                             [第6話 終]


100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 16:56:58.40 ID:W/Ns2wUZ0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第7話「公告!」をお送りします”


101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 16:58:18.40 ID:W/Ns2wUZ0


最近は、気候が少し過ごしやすくなり、つい、朝も寝坊をしたくなる。

けれど、去年の今ごろは文化祭に向けて練習などしていたということが、
私にはまるではるか昔のことのように思われてしまう。

そして、いつものように登校、いや、出勤して掲示板を眺める。



『徴兵検査予備調査の実施 ○年◇月◆日 兵務課・生産課・学事課』

『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告(1) ○年◇月◆日 兵務課』

『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告(2) ○年◇月◆日 兵務課』

『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告(3) ○年◇月◆日 兵務課』

『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告(4) ○年◇月◆日 兵務課』

『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告(5) ○年◇月◆日 兵務課』


102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 17:02:07.61 ID:W/Ns2wUZ0


そして、久しぶりに再びあの忌まわしい公告を発見してしまう。

(何でこんなに!?)

混乱する頭脳を必死に抑えながら読み下す。
(1)の文書には、3年1組の生徒の名前だけが5人ほど載っていた。
どうやら、人数が多いので出身のクラスごとに文書を分けたらしい。

(ということは、(2)は……)

唾を飲み込むと、喉元を締め上げられるような息苦しさを覚える。



『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告(2) ○年◇月◆日 兵務課』

 “標記の件について、下記のとおり公告する。
                           ○年◇月◆日
                           服桜支兵兵第142号
                           兵務戦備局兵務課長 印

      氏  名      所  属    摘  要

    平沢    唯    第2小隊    戦傷
                         (五十音順)以上1名”


103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 17:06:28.82 ID:W/Ns2wUZ0


私は、卒倒しかけて仰向けに倒れそうになるが、幸か不幸か、
後ろの下駄箱に後頭部を強打し、痛みで意識を取り戻す。

「つぅっ…」

下駄箱に背中を預けて後頭部をさすっていると、
少し遅れて出勤してきた純が顔を覗き込んでくる。

「おはよ梓。何してんの?」

「あ…おはよう」

純に目を合わせようとすると、途中、掲示板の前の人影が目に付いた。

憂だ。

「憂っ!見ちゃダメ!」

何がダメなのだろう。私は訳もわからず反射的に叫んでいた。


104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 17:10:31.18 ID:W/Ns2wUZ0


あっけに取られている純を押しのけて、憂に近付くが、遅かった。
わなわなと震えていた憂が、腹の底から絞り出すような叫びを上げる。


 「…ぉ、おね、おねえちゃぁああん!うわぁぁぁ゛あ゛あ゛!!!」


そのまま、憂はその公告をむしり取って紙吹雪のように粉々に破り散らす。

 「ヤバいよ!人来ちゃうよ!」

 「落ち着いて憂、ダメだって!」

 「嘘!こんなの嘘だよ!嫌ぁぁぁおねえちゃんがぁぁぁ!!!」

純と二人がかりで憂を押さえつけるが収まらず、たちまち周囲は人だかりとなる。


105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 17:13:24.27 ID:t/vf1kme0

唯はどうなってしまったんだ…


106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 17:16:17.64 ID:W/Ns2wUZ0


同時刻、学事課執務室。

早めに出勤して、私は学事課長席で書類を整理していた。
すると昇降口のほうから、建物全体が振動するような咆哮が聞こえた。

異変を感じて駆けつけると、憂が、掲示板の前で同級生二人に押さえつけられながら、
なおも、それを振り払うように猛っている。

私は、正気を失った憂を静めようと駆け寄り、呼び掛ける。

 「ちょっと憂!何してるの!」


憤激し頭に血が上った憂は、完全に我を忘れていた。

 「…の、和ちゃん!これ和ちゃんの仕業でしょ!私信じないからっ!!」

私のことを視認するやいなや、同級生二人を振りほどき、羅刹のごとき形相でにじり寄る。
野次馬の人垣は、その並ならぬ憤怒の相に恐れをなし、
旧約聖書の出エジプト記の海水のごとく左右に分かれて憂から退く。

憂は、私の制服の襟をちぎれんばかりに掴んで激しく揺さぶる。
そして、思いがけない言葉を私に叩き付ける。

 「…和ちゃんが、売ったんでしょ!お姉ちゃんを!先輩たちを!三年生二百人を!
  次は私たちを売るつもりなんだ!徴兵の予備調査って何なの!?」


107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 17:23:33.87 ID:W/Ns2wUZ0


正直言って、憂から、このようなことを言われるとは思わなかった。

冷静さを失っているとはいえ、旧知の親友の妹から面と向かって罵詈雑言を浴びせられ、
みぞおちから背中まで錐で刺し貫かれたような感覚に襲われる。

野次馬の下級生たちも、多かれ少なかれ、私をそのように思っているのだろう。
私は身じろぎもせず、一言も発さず、ただ憂の目を見据えていた。

 「嘘なんでしょ!?お姉ちゃんは無事だって言ってよ!!」

 「…憂、残念だけど嘘じゃないわ。先日の会議で…ッ」

とっさに、振り抜かれる手の力に負けないよう、右足に力を込める。
乾いた甲高い音がして、眼鏡が吹っ飛び、廊下の焦茶色の床を滑っていく。

騒然としていた人だかりが、水を打ったように静まる。

憂は私の頬を引っぱたいたあと、獲物を目の前にした肉食獣のように、
しばし肩で深く息をしていたが、そのまま膝から床に崩れ落ちた。

 「うそ…うそ…、うう、う゛え゛えぇぇ…」


108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 17:33:21.27 ID:W/Ns2wUZ0



憂は、遅れてきた警務隊に両肩を押さえられて鎮静剤を打たれ、
引きずられるようにして医務室に連れて行かれた。



 「…みんな、何してるの?もうホームルームでしょ?早く教室に入って」

私は襟元を直すと、鼻血が滴るのも意に介さず、野次馬を冷然と誘導する。

すると、野次馬の下級生の一人から、
レンズが傷つき、蝶つがいがあらぬ方向に曲がった眼鏡を差し出された。

 「どうぞ、…学事課長」

私が無言のまま目礼すると、私の眼差しと、その冷ややかな眼差しとが交差する。
眼鏡を受け取り、学事課執務室への帰路につく。

鉄錆の味がする口内を舌でなぞると、ゆるんだ犬歯が歯茎から離れた。


109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 17:43:19.66 ID:W/Ns2wUZ0



朝、純ともども憂に振り飛ばされたので、全身がきしむ。
午前の作業開始後、私は第32検品室にいる先輩方に製品を持って行く。

 「これが昨日の分です。だいぶ多いのでよろしくお願いします」

 「確かに最近多いわね。梓ちゃん、いつもごめんなさい」

 「中四国から関東と東北に生産をシフトしてるみたいですよ」


私が軽く息を吸って、

 「…あと、唯先輩が帰ってきます」

と、例の公告の話を切り出すと、澪先輩が反応する。

 「そうか。今朝、すごい叫び声が聞こえたけど、あれ、憂ちゃんか」

 「はい」

 「まさか…、“無言の凱旋”ってわけでは、ないよな?」

澪先輩が婉曲な表現を選びながら聞いてくる。


110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 17:45:45.45 ID:W/Ns2wUZ0


律先輩もムギ先輩も神妙な面持ちである。無理もない。
後送されるということは、例外なく戦死か戦傷病なのだから。


 「戦傷だそうです。詳しくはわかりませんけど」

 「ふうん、それは、…」

“良かった”と、恐らく澪先輩は続けたかったのだろう。
しかし、どこが“良い”のか。

帰還すること自体はもちろん嬉しい。
が、自分たちと同じような状態になっているに違いない。
そう思って、言葉を飲み込んだのだ。

 「いつも通り納期は今日中にお願いします。終わったら無線で呼んでください」

先輩方の心境を察していたたまれなくなった私は、
事務的に連絡を切り上げると、第32検品室を後にした。


111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 17:52:13.37 ID:W/Ns2wUZ0


──ある朝の病室、旧3年2組。

さすがに、教室の広さの部屋に3人しか入院していないのは、少し寂しい。
とはいえ、新たな同室者はなるべく増えて欲しくないが。
負傷した唯はいつになったら帰ってくるのだろう。
これが、現在の入院者である3人の心境であった。


 「はい、朝刊。隣の病室からもらってきたわ」

紬が、膝掛けの上に載せてきた朝刊を差し出すと、律が右手で受け取る。

 「ありがと。ありゃー、曰経もとうとうタブロイド版になっちゃったか。
  物資不足も相当深刻になってきたな」

 「最近は大きさや紙質どころか記事の質もタブロイドだからちょうどいいだろ」

澪がそう言って短くなった髪をかき上げつつ冷笑する。

 「みおしゃん手厳しいですな~。まあ、小さい方が持ちやすいから助かるけど」

そう言って、律は澪に新聞を読み上げ始める。紬もまた、耳を傾けている。

 「えーと、“米第7艦隊、台湾近海で敵艦隊を猛襲”だとさ」

 「どこまで本当なのかな」

 「全く同感ね…」


112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 17:56:56.14 ID:W/Ns2wUZ0


しばらく読み進めていた律の声が一瞬止まる。

 「…。“高校二年生の徴兵猶予解除。順次実施へ”」

 「そうか…。この前予備調査したばかりなのにな」

 「梓ちゃんや憂ちゃんも、ついに前線行きね。
  唯ちゃんとすれ違いにならなければいいけれど…」

澪と紬も、朝から喜ばしくないニュースを聞いて、浮かない声を上げる。

廊下から、朝食の飯上げを知らせる声がする。

いつもなら、不味くて量も少ないなりに、数少ない楽しみなのだが、
今朝は誰も、献立を気にする者はいなかった。

                               [第7話 終]


114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 18:00:20.11 ID:W/Ns2wUZ0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第8話「検品室!」をお送りします”


116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 18:05:43.95 ID:W/Ns2wUZ0


数日後。

半日使って、徴兵検査を行った。とはいえ、この前の予備調査よりいい加減だった。
もはや、利き手の人差し指が動けばいい、くらいの基準なのだろう。

少なくとも、周りで不合格になった人は、誰もいなかった。
具体的にいつ戦地に向かうことになるのだろう。


日を追って多忙となり、被服廠の生産ラインはフル稼働状態となる。
延長操業と軍事教練の拡大で授業時間はさらに減少し、
私も作業棟と検品室をコマネズミのように慌ただしく往復するばかりの日が増えた。
私は検品用の製品を放り投げるようにして検品室に持ち込む。

「これも検品お願いします!あと2往復は来ると思います」

ムギ先輩が嘆息すると、澪先輩が不安そうに頭を抱える。

「今日も残業ね。日が変わる前に終わるかしら」

「量はともかく、品種が増えると検査の仕方がわからないんだよ…」

そんな澪先輩に、律先輩が発破を掛ける。

「澪、見えないならとにかく触って覚えろ。
 は~、指一本でも動く限りは働けってか。お国はやることえげつないな!」


117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 18:09:01.15 ID:W/Ns2wUZ0


つかの間の昼休み。
私も製品を届けるついでに、第32検品室で先輩方ともに昼食の芋粥を食べる。

律先輩は、湯飲みに入った白湯を一口飲むと、苛立ちも隠さず、
部屋のあちこちに積まれた軍靴の山を見回して澪先輩をなじる。

「サイズ違うの混ぜるなよ。どーすんだこれ。検品し直しだ。終わんないぞ」

「律、ごめん。だって、見えないし、そんな微妙なサイズの差なんか…」

「言い訳すんな!納期に遅れて怒られるのは室長の私なんだ!」

そう言って律先輩が右手で机を叩くと、澪先輩はその身をびくりと強ばらせる。
机上にあるアルマイト食器がカタカタと鳴る。

澪先輩がうろたえながら軍靴の山をまさぐろうと立ち上がる。

「す、すぐやり直すから!許してくれよ…」

「やっぱいいよ、澪は。また間違われたらシャレにならないからさ」


ムギ先輩と私が、その場を取りなそうと言葉を挟む。

「りっちゃん、あなた疲れてるのよ。私ももっと頑張るから、ね?」

「律先輩、私も手伝いますから!今日の午後は空いてますし…」


119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 18:14:50.46 ID:W/Ns2wUZ0


澪先輩以外の三人で、黙々と軍靴の検品が続く。
澪先輩は、軍靴の中にひたすら古新聞を丸めて詰めている。
律先輩が額の汗を拭いながら業務日報を書いている。

 「26.0cm、80組中、合格78組、と」

 「あ、新聞紙なくなっちゃった」

 「澪、そこだ」

 「そこじゃわかんないよ…」

律先輩は持っていたボールペンで後方を指し示すが、
机上で両手を泳がせている澪先輩の姿を見て再び苛立ちを爆発させ、
ペンを机に投げつける。

 「机の上じゃねえよ!どこに目ぇ付けてんだッ!」


その瞬間、部屋の空気が凍った。
一呼吸置いて、澪先輩のすすり泣く声がし始める。

 「目なんか、もう、付いてないよ…付いて、ないんだよぉ…っ」

 「みみ澪ちゃん!わ、私代わりに新聞紙取ってくるから!」

そう言って、うろたえながら動き出そうとしたムギ先輩だが、
車いすを机の脚に引っかけて派手に転ぶ。


120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 18:16:20.04 ID:W/Ns2wUZ0

支援深甚に感謝。飯食ってくる。


123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 19:40:28.02 ID:W/Ns2wUZ0

お待たせ。支援深謝
---------
軍靴の山が崩れる。
倒れた車いすの車輪が空回りする音がからからと響く。

私は一連の状況を呆然と眺めていたが、我に返ってムギ先輩を抱え起こす。

 「あの、大丈夫ですか?ケガは…」

 「うん、平気。ちょっと擦りむいたけど」

ムギ先輩が涙ぐんでいたのは、転倒した痛みのためだけではないのだろう。

ふと視線を上に向けると、律先輩が立ち上がり義足を引きずって、
窓際に集めてある古新聞の一束を鷲掴みにしていた。

 「…ごめん、澪。本当にすまなかった。口が滑った。作業を再開しよう」

 「律、私たち、どうしてこんな風になっちゃったのかな…」

 「言うな。言ってどうなるもんでもないよ…」

私たちは、再び黙々と作業を進める。

 「26.5cm、90組中、合格89組…」

そう呟いて業務日報を付けていた律先輩が、ふと顔を上げる。

─────────────────────



124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 19:43:02.27 ID:W/Ns2wUZ0


窓の外、校庭のほうから、太鼓と笛の音が聞こえてくる。

二年生の出征に備えて、壮行会の練習でも始まったのだろうか。

律先輩はしばらく真顔で鼓笛の調べに耳を傾けていたが、
おもむろに口を開き、静かに、しかしきっぱりと呟いた。


「…解散だ。放課後ティータイムは」


「律先輩、なんで、急にそんなこと…」

私は軍靴の縫い目をなぞっていた手を止めて、律先輩に顔を向ける。


125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 19:48:17.90 ID:W/Ns2wUZ0

澪先輩とムギ先輩が、取りなすように話し始める。

「さっきのことを気にしてるのか?
 もう大丈夫だよ。私と律の仲じゃないか」

「りっちゃん、そんなに思い詰めないで。
 これからも力を合わせていきましょう?」


律先輩が浅く息をつく。そして、滔々と語りだす。

「そんな次元の話じゃないさ。私、ずーっと考えてたんだよ…。
 私たちが、これからどうやって生きていけばいいのかって。

 このまま高校を卒業できるかどうかも分からない。
 この体で、食うための術を身につけないといけない。

 そもそも、もうバンドなんか、できる体じゃない。

 万一、仮にできたとしても、そんな余力があるのなら、
 人一倍、働くための努力なり、勉強なりしなきゃいけないと思うんだ…」


126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 19:51:27.43 ID:W/Ns2wUZ0


しばしの沈黙。やがて、風に窓枠が鳴る。
窓の外からは、秋の気配を漂わせるそよ風とともに、
かすかに機械油の匂いがしてくる。

ムギ先輩が、

「…でも、私、やっぱり寂しいな。みんなとバンドできなくなるのは」

と、伏し目がちに呟くと、律先輩が冷徹に言い返す。

「ムギ、酷な言い方だけど、お前は少なくとも食うには困らないだろ?
 でも、私と澪はそういうわけにはいかないよ。

 それに、足が不自由だとピアノはペダルを踏むのが難しいかもしれないけど、
 キーボードはなんとかなるだろ…」

律先輩の言葉を聞いたムギ先輩の白い顔が、少しずつ紅潮してくる。
それは悔しさからか、寂しさからか、悲しさからか。


127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 19:52:52.54 ID:W/Ns2wUZ0


それが見えない澪先輩が、沈黙を破って言葉を発する。

「ムギ、気持ちは嬉しいけど、私も地に足が着いた話をしないと、
 これから生きていけないと思うんだ。私も点字とか覚えないといけないし。
 正直、戦争が終わっても、桜高で勉強を続ける自信がない…」

「…そうね。私、地に足が着いてないもんね。精神的にも物理的にも」

「あ、ムギ、ごめん…。いや、そういう意図で言ったんじゃないんだ」

「ん、いいの。本当のことだから…」

そう言って、ムギ先輩が自嘲的なはにかみを浮かべる。


128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 19:56:22.59 ID:W/Ns2wUZ0


律先輩が、自分に言い聞かせるように言う。

「もうここには、放課後も、ティータイムも、ありゃしないんだ。

 今や、ここは部室じゃなくて検品室。
 あるのはキツい残業と、味気ない水道水だけ。
 梓も、もうすぐ出征だしな。

 過去の栄光ってほどじゃないけど、それにすがるなんてみっともないよ」

澪先輩が寂しげに微笑んで目に見えぬ天井を仰ぐ。

「“思い出なんていらないよ”…か。
 はは、ホントはこういう文脈の歌詞じゃなかったんだけどな」

ムギ先輩が制服の襟元を握りしめて呟く。

「…うん、私もこの部屋にいるだけで、正直言って、心が痛むもの」


129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 19:57:55.96 ID:W/Ns2wUZ0

私は、ふと気付いて問いかける。澪先輩が諦め気味に応じる。

「まだ帰ってこない唯先輩は、どうなるんですか?」

「詳しいケガの状況はわからないけれど、後送されてくる以上、
 私たちと似たり寄ったりの状態じゃないかな。少なくともバンドは…」

律先輩が、空元気を絞り出すようにして、発破を掛けると、
ムギ先輩も取って付けたように茶化す。

「…よし!唯が帰ってきたら、全員揃ったところでささやかな解散式でもすっか!
 決めた以上はキチっと踏ん切りつけて、前向きにいかないとな!」

「ふふ、お菓子とお茶じゃなくて、配給食と白湯で、だけどね」


131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 19:59:38.30 ID:W/Ns2wUZ0


一呼吸置いて、澪先輩が、諭すように私に語りかける。

「でも、梓は技術も意欲もあるんだ。
 私たちみたいな、いわば過去の思い出に囚われないで、
 戦争が終わったら、違う世界に旅立つべきだよ。

 軽音部を再興できればそれでもいいけれど、
 ジャズ研でもいいし、外バンって手もあるんだからな…
 私たちと違うんだから、自分の可能性を潰しちゃいけないぞ」

「そう、ですね、よく、考えて、おき…ます」

声が詰まりそうになるのを必死に堪えていると、のど仏が痛くなってくる。



その後、私たちは、ひたすら、黙々淡々と検品を続けたが、
律先輩が時折、業務日報を付けながら読み上げる以外、
誰も、ほとんど何も話さなかった。

そして、私たちはなんとか日が変わる前に検品を終えた。

「32.0cm、45組中、合格43組、と。みんなお疲れ。……これで終わりだ」

                               [第8話 終]


132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 20:07:23.80 ID:W/Ns2wUZ0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第9話「集合!」をお送りします”


133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 20:09:35.84 ID:W/Ns2wUZ0


さらに数日が過ぎた。

憂も最近ようやく少し落ち着いた。
純がムカゴの無断採集をして懲戒処分を受けた以外は、
穏やかな秋空のように特に事件もなく平穏だった。

私は例によって、前日生産された製品を検品室に持って行く。

「今日は樹脂製品が多いですね。私も午後は空いてるから手伝えますよ」

「おお。カチューシャあったらわざと不合格品出して頂戴しちゃおうかな~」

「律!真面目にやれ!」

澪先輩のゲンコツが空を切りそうになるのを、律先輩が額で受け止める。

「痛って!冗談だよ冗談!」

「ウフフ。じゃあ私、水を用意するわね」

やかんに入った水道水を、ムギ先輩が湯飲みに注ぐ。


134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 20:11:15.83 ID:6IGJ0vg0O

じゅんじゅわ…


135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 20:13:35.11 ID:NDJ//zJrO

純www


136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 20:15:00.70 ID:W/Ns2wUZ0


検品室での昼休み。

先輩方とともに、昼食のサツマイモご飯と、芋のツルの煮しめを食べる。
律先輩とムギ先輩が愚痴を言うのを、澪先輩と私が茶化しながらなだめる。

「何だよこの芋縛りプレイ!もはや罰ゲームだろこれは」

「芋のツルが堅くて噛み切れないわ」

「考え方を変えよう。スルメみたいにずっと噛んでれば長く楽しめるぞ」

「繊維質はたっぷり摂れそうですね。アゴが疲れますけど」

まあ、たしかにイモばかりでおいしいものではないけれど。


先輩方と談笑しながら机を囲んでいると、不意に、検品室のドアの外から声が聞こえた。


「…この部屋が今は検品室かぁ。ホントにみんないるのかな?」


137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 20:20:48.01 ID:W/Ns2wUZ0


聞き覚えのある呑気な声。全員の談笑が瞬時に静まる。


 「唯先輩!?」

私はその名を叫ぶより早くドアに駆け出す。

 「その声はあずにゃん!?早く開けてよ!」


私は開けろと言われるまでもなく、ドアを思い切り開け放つ。
途端、視認する暇もなく唯先輩が組み付いて頬ずりしてくる。

 「久しぶりにあずにゃん分補給!」

 「や、やめてください!」

 「…えへへ、あずにゃ~ん、それじゃあ離れられないよ~」


138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 20:24:21.72 ID:W/Ns2wUZ0


言われて気付けば、私は唯先輩を固く抱きしめていた。
それを見た先輩方がはやし立てる。

 「二人とも相変わらずお熱いな~!」

 「久しぶりにいいものを見せてもらいました…」

 「見えない…大体想像つくけど」

私は顔を真っ赤にして、唯先輩を押しはがす。思いのほか、唯先輩は簡単に離れてくれた。

一瞬、物足りないと思ってしまったことに気付き、私はひとりでに一層赤面する。


 「不肖、平沢唯、恥ずかしながら帰って参りました!」

そう言って敬礼する唯先輩を見て、律先輩が苦笑し、ムギ先輩が感嘆する。

 「唯、横井庄一のマネしたって、その格好じゃサマにならないぞ~」

 「でも、帰ってきてくれてありがとう。これでやっと全員揃ったのね!」

 「おい、唯はどういう格好なんだ?」

澪先輩の疑問はもっともだ。見えない以上、この会話だけでは様子はわからないだろう。


139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 20:29:09.90 ID:W/Ns2wUZ0


私ももはや驚きはしないが、荷物で手が塞がっているわけでもないのに、
「ドアを開けて」と言われた理由がわかった。

ドアノブを回すことができなかったのだ。
抱きつかれていたとき、簡単に引きはがせたのも同じ理由だろう。


敬礼の姿勢をとる唯先輩の制服の両肘から先の袖は、
昔、何か古いマンガで見たキャラクターのようにブラブラとたるんでいる。

 「いやぁ~、ロケット弾がドーンで両手がボーンだよ」

 「…大体、わかったよ」

唯先輩の言葉に、澪先輩は全てを察したかのように言葉少なにうなずく。


唯先輩がいつもの席に座る。椅子を引くのも一手間だ。

この席に五人で座るのは何ヶ月ぶりだろう。
その何ヶ月かの間に、元の様子とは大層変わってしまったけれど。


140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 20:34:08.06 ID:W/Ns2wUZ0


 「あ。みんなはどうなの?ケガはどんな感じ?」

 「…ま、見てのとおりって感じなんだけどな。私は左の手足、澪は両目、ムギは両足をやられた」

 「へぇ、これでみんなお揃いだね!私だけだったらどうしようと思ってたよ」

 「唯ちゃん、義手は付けないの?」

「やっぱり面倒なんだよね。一応持ってるけど」

先輩方は、お互いの負傷の状況について、あまり詳しくは語らなかった。
もはや、深く探り合う必要もないのだろう。

 「んで、唯は昼飯食ったの?」

 「一応ね~。麦飯のおにぎりをトラックの中で。
  でもポロポロしてるからだいぶこぼしちゃったんだよ」

と言いながら、唯先輩は皿からはみ出ている芋のツルを器用にかじる。
それを見たムギ先輩が芋のツルをつまんで唯先輩の口に運ぶ。

 「あらあら。唯ちゃん、あーんして」

 「あーん。持つべきものは友だよね~」


141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 20:41:59.70 ID:W/Ns2wUZ0


 「…で、純がトンちゃんのことをおいしいのか、って言ったんですよ」

 「そんなこと言ってたの?あずにゃんが監視しないと危ないよぉ!」

再び他愛のない雑談をしていると、唯先輩が無邪気に言い出す。


 「ねえねえ!放課後ティータイムの活動、いつ再開するの?
  せっかく全員揃ったんだから早くやろうよ~!」


さわやかな秋風が窓から吹き込んでいたはずの室内の空気は、
途端にうそ寒い雰囲気に塗り替えられ、沈黙に支配された。

 「…どうしたのみんな?検品室って結構忙しいの?
  それともお茶とお菓子がないからできないとか?」

 「あのね、唯ちゃん、とっても言いにくいんだけれど……」

 「いや、ムギ、私が言うよ。あのな、唯、今からすごく大事なことを…」

ムギ先輩と澪先輩が、躊躇していると、律先輩が決然たる口調で言い切った。


 「放課後ティータイムは、解散だ」

─────────────────────
http://www.youtube.com/watch?v=4RWxrv_sDmU


142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 20:44:21.50 ID:W/Ns2wUZ0


 「…ほえ?」

唯先輩の口から、芋のツルの切れ端がはたりと落ちる。

 「唯が帰ってきたら、正式に解散しようってみんなで決めた」

 「なんで?」


目を点にしてきょとんとした顔をしている唯先輩とは対照的に、
律先輩が表情を険しくこわばらせながら続ける。
澪先輩とムギ先輩も、口を結んだまま耳を傾けている。

 「どう考えても無理だろ。今の私たちには」

 「何が無理なの?」

 「バンドとしての活動が、さ」

 「バンド…」

 「つまり楽器を弾くことが、だよ」

 「楽器…」


143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 20:45:50.98 ID:W/Ns2wUZ0



 「唯は、ギターだろ?」

 「うん…」

 「唯の手は、どうなったんだよ?」

 「手は…なくなっちゃったよ」

 「じゃあ、コードはどう押さえるんだ?」

 「それは……」

律先輩は苦衷を隠しきれない表情をしながら、
一つ一つ、絞首台の階段を登らせるように、唯先輩に問いを発する。

徐々に、以前と変わらず脳天気と言っていいほどだった唯先輩の表情が固くなり、
その目からは光が衰えていく。


144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 21:03:56.62 ID:W/Ns2wUZ0


その光景に耐えかねたムギ先輩が声を絞り出す。

 「あの、唯ちゃん!
  りっちゃんはね、唯ちゃんを非難してるんじゃないの。
  ただ、事実を正面から見てほしいだけなの…」

続いて、澪先輩も、噛んで含めるように諭す。

 「唯は、これからどうやって生きていくつもりなんだ?
  私はもう、目が見えないんだ。
  戦争が終わったところで、正直、この学校では勉強は続けられないだろうな。

  つまり、以前と同じ生活は、もうできないんだよ。
  唯は、両手を失ったんだぞ。それをどう考えてるんだ?」


唯先輩が押し黙る。

その首が、熱した飴細工が自重に負けるようにして徐々にうつむき、
ようやくか細い声を発する。

 「で、でも、私は…みんなが…ギー太が…軽音部が…」


145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 21:06:22.62 ID:W/Ns2wUZ0


「唯っ!現実見ろ!正面から!過去に引きずられるな!」

律先輩が、唯先輩の肩口を左の義手で押さえ、右手で顎を押さえ顔を起こす。

 「り、律先輩!」

 「梓っ!お前は黙ってろ!」

その尋常でない剣幕に、思わず声を上げると、律先輩が一喝する。


 「唯の気持ちは嬉しいさ。超嬉しいよ。澪もムギも梓もきっと嬉しいよ。
  でも、本当に、これから、どーやって生きていくか考えてんのか?

  どーやって飯食って風呂入って寝るんだよ?
  どーやって勉強するんだよ?
  どーやって働くんだよ?
  どーやって親や憂ちゃんになるべく負担かけないようにするんだよ?」

がくがくと唯先輩の肩口を揺さぶる律先輩。
その揺れで、二人の潤んだ瞳から、一滴、二滴、涙が飛ぶ。


146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 21:08:57.27 ID:W/Ns2wUZ0


 「う、い…」

唯先輩の口から、絞り出すようにして憂の名が出る。
そこにムギ先輩が言葉をつなげる。

 「…そう。きっと、優しいし、よく人間のできた憂ちゃんのこと。
  甲斐甲斐しく付き添ってくれるわ。それこそ一生、ね」


焦点の定まらない目をしている唯先輩を我に返すように、
澪先輩が細かく砕いて言い聞かせる。

 「なにしろ憂ちゃんだからな。大学に行っても、就職しても、結婚しても、
  憂ちゃん自身の夫のことよりも、唯のことを、きっと大事にしてくれるぞ。
  もしかしたら結婚もしないでずっと世話してくれるかもしれないな。

  でも、それが憂ちゃんの人生になっちゃうんだぞ?それでもいいのか?
  アイスをねだるのとは訳が違うんだぞ?」


147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 21:10:53.10 ID:W/Ns2wUZ0


 「…やだよ。そんなの、やだよぉ…」

律先輩が、わなわなと震えている唯先輩を右腕で抱き寄せる。

 「……そうだろ。

  ぶっちゃけ、私だってさ、聡におんぶにだっこすれば楽にはなると思うぞ?
  でも私はそれは嫌なんだよ。絶対に。アイツにはアイツの人生があるんだから。

  だから、私たちは自力で前に進んでいかなきゃいけないんだ。
  前に進むためには、後ろに何か置いて行かなきゃいけないこともあるんだよ。

  たとえそれが、大事な思い出だったり、仲間だったり、バンドだったり。
  つまり、放課後ティータイムだったりしても、な…」

 「…う、う゛…っ…ふう゛っ…」

唯先輩が声を押し殺してすすり上げる。
律先輩の制服の右肩に、唯先輩の涙と洟が濃紺のしみを作り、徐々に大きくなる。


148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 21:13:01.31 ID:W/Ns2wUZ0



背後で、水槽の濾過装置から流れるせせらぎが、かすかな水音を立てている。

トンちゃんだけは、以前より少し大きくなった以外、
全く変わらぬ姿のまま、たゆたうように水槽の中を泳いでいる。

その水槽の中だけ、時間が停止しているようだった。

私たちはこれほどまでにも変わってしまったというのに。

私は、ただ、律先輩の言葉を、黙って噛みしめていた。

                           [第9話 終]


151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 21:53:17.34 ID:W/Ns2wUZ0

すまん今北。風呂入って考えてた。
1クール13話で終わらせようと思ったが難しそうだ。15~16話くらいか。


153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 21:56:02.86 ID:W/Ns2wUZ0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第10話「前進!」をお送りします”


154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 21:57:04.76 ID:W/Ns2wUZ0


窓からの秋風が私たちの頬を柔らかに撫でている。


嗚咽をこらえていた唯先輩が、両前腕を律先輩の肩に押し当てて、
ゆっくりと押しはがす。そして話し始める。

「ごめんね…。私だって、分かってなかったわけじゃないよ…
 前と同じようになんか生きていけないって。
 でもね、私は諦めたくないんだよ」

「唯ぃ、気持ちはわかるけどさ、現実から逃げるなよぉ!
 私たちだって、前に進もうとしてるんだぞ!」

律先輩が今にも泣き出しそうな顔で叱咤する。


155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 22:01:49.20 ID:W/Ns2wUZ0


 「…違うよ!現実から逃げてるのは、みんなだよっ!」

唯先輩が、窓ガラスが振動するかと思うほどの気迫で叫ぶ。
私は、思わず背筋を正して、唯先輩に向き直る。唯先輩が問う。

 「みんな、負傷してから、どのくらい楽器をさわったの?
  本当にもうダメだっていうくらい試したの?」

律先輩も、澪先輩も、ムギ先輩も押し黙って、
唯先輩からわずかに視線を逸らす。
その一人一人の顔を見返しながら唯先輩がたたみ掛ける。

 「………みんな、全然やってないんでしょ!
  なんだかんだ理由付けて楽器にさわれなかったんでしょ!
  やりもしないでできないなんて、絶対おかしいよ!卑怯だよ!」


澪先輩が憤懣やるかたない表情でいきり立って反論する。

 「でも、仮にできてもバンドやってる場合じゃないだろ!?
  私だって、目も見えないから勉強もままならないんだぞ。
  このまま高校にいられるかどうかもわからないんだ。
  生きていくために必要なことを優先しなきゃダメだろ!」

若干、唯先輩のいる方向とは外れたところを向いているが、
そんな無粋なことは誰も言わない。


156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 22:03:31.38 ID:W/Ns2wUZ0


 「…そんなの、詭弁だよっ!」

唯先輩が斬って捨てると、律先輩が努めて感情を抑えてさらに問う。

 「バッサリだ、な。唯、お前らしいよ。
  でも、どこが詭弁なんだよ。正論だろ?
  唯みたいな甘い考えで生きていけるのか?」

 「確かに、これから生きていくのはキツいと思うよ。

  でも、自分たちが本当にやりたいことをすぐ諦めちゃう人間が、
  キツいことやツラいことを乗り越えられるとは私には思えないよ!

  私の考えが甘いっていうなら、りっちゃんの考えも甘甘だよ!
  どうして、バンドも生活も、両方頑張っちゃいけないの?」

唯先輩が、両腕を振りながらさらに反論すると、
余った制服の袖が、勢いよくはためく。


157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 22:15:51.48 ID:W/Ns2wUZ0

ムギ先輩が、穏やかに諭す。

 「唯ちゃん…、でもそれは茨の道よ。
  失礼かもしれないけど、普通に高校の勉強と両立するのだって、
  唯ちゃんは大変だったじゃない」

 「もう一度バンドやるって目標があれば、きっと頑張れるよ。
  両方は確かに大変だと思うけど、少なくとも、バンドをやめることは、
  これからの人生をより楽しくすることなんかにならないよ!」

唯先輩は、勉強の指摘をされて、
若干決まりの悪そうなはにかみを浮かべたが、
表情を正すと、私たち一人一人の顔を覗き込んで説き伏せるように言う。


159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 22:22:05.98 ID:W/Ns2wUZ0


 「…憂には、まだ会ってないんですよね?」

 「うん。さっき着いたばっかりだし。
  …ううん、あずにゃんごめん、ウソついちゃった。
  会おうと思えば真っ先に会えたのに、会わなかったんだよ」

 「じゃあ、憂のこと、どう思ってるんですか?どうしてあげたいんですか?」

私が唯先輩に質問すると、唯先輩の表情が陰る。
心が痛んだが、唯先輩の意志を確かめたかった。

 「…私も、憂に会うの、実は怖かったんだよ。
  憂はすっごく優しいから、あの顔を見たら、また甘えちゃうんじゃないか。
  ホントに一生、その優しさに寄りかかっちゃうんじゃないかって。

  でも、確かに、憂にはこれまで以上に迷惑かけるかもしれないけど、
  それ以上に憂に喜びをあげられるようになりたいんだよ。
  だって、私がケガしただけでも憂は悲しむのに、
  ケガのせいで諦めたら、憂はきっともっと悲しむよ…っ」

唯先輩が再び嗚咽する。全員が沈黙する。


160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 22:26:00.66 ID:W/Ns2wUZ0


清秋の青空から、うろこ雲の薄衣を通して、暖かな日差しが検品室の窓に降り注ぐ。


唯先輩が、一語一語、言葉を絞り出す。

 「私だって怖いんだよ。おっかないんだよ。不安なんだよ。
  これからどうやって生きていけばいいのかなって。

  でも、りっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん、あずにゃん…
  みんな、心の底ではもう一度、何とかしてバンドやりたい、
  一緒にいたいと思ってるはずなのに、なんでウソついちゃうの…?

  現実から逃げてるのは、自分たちの本心から目を背けてるのは、みんなだよぅ…っ」


気が付けば、他の先輩方も、そして私自身も、必死に嗚咽を堪えている。


161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 22:29:31.60 ID:W/Ns2wUZ0


そしてどのくらい時間が経ったか。
ものの数十秒だったかもしれない。数十分だったかもしれない。

不意に、静寂が破られる。

背後で大きな水音がした。トンちゃんだ。
そういえば、今日は餌の大豆粕をあげていなかった。
我に返って席を立とうとすると、俯いていた律先輩がにわかに声を上げる。

「……夢はでっかく武道館、か。
 ははは、そうだな。そういやそうだったな。
 すっかり忘れてた!はは、はははは!そうだろみんな!」

律先輩が椅子の背もたれに目一杯背中を預けて哄笑する。
私は一瞬、気でも触れたのかと、不安になる。

「ごめん!澪!ムギ!梓!やっぱ放課後ティータイム解散取りやめ!
 解散とかありえないわ!解散の言い出しっぺが私だから、取りやめも私でいいだろ?」

「え?りっちゃん…それ…って…」

唯先輩が、状況を把握しきれず、目を真っ赤にしたまま問う。
それは、私も、澪先輩も、ムギ先輩も同じ気持ちだっただろう。


163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 22:34:57.53 ID:W/Ns2wUZ0


律先輩が泣き笑いしながら答える。

 「やろう。バンド。できるかわかんないけど、やれるだけやろう。
  少なくとも、今の私たちからそれを取ったら、何も残らないよ!
  トンちゃんの世話を梓一人に押しつけるわけにもいかないし!」

ようやく文脈を把握した私と澪先輩とムギ先輩は、
当惑と喜びの混じった表情を浮かべるが、
澪先輩は、私とムギ先輩の表情がわからないせいか、いち早くこう言った。

 「そうだな…。もちろん不安はあるよ。すごく大きな不安が。
  でも、死んだら殺すってさわ子先生にも言われたのに、
  手足や目なんかと一緒に希望まで失ってたら、何回殺されるかわかんないしな!」

すると、固まっていたムギ先輩が、満面の笑みを浮かべて言う。

 「そうね。このまま終わるのは嫌だもの。
  私も、やっぱりみんなと一緒に活動したい!みんなも一緒でしょ?
  仮にこれで出遅れても、受験で浪人したと思えば、何てことないわ!」

 「あずにゃんは!あずにゃんはどうなの!?ダメ?」

唯先輩に突然話を振られた私は、とっさに返す。

 「ふざけないでください!先輩方と一緒にバンドしたいに決まってるじゃないですか!」

 (あ、言っちゃった…)

言ってから、赤くなった顔をさらにこれ以上ないほど赤面させる。


164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 22:37:18.38 ID:W/Ns2wUZ0


 「…決まりだな。放課後ティータイム再結成!」

律先輩が全員の顔を眺め回しながら言うと、澪先輩がたしなめる。

 「はは、まだ正式に解散もしてないんだから再結成じゃないだろ」

 「せっかくだから、お茶とお菓子でお祝いしたいくらいよね」

ムギ先輩がそう言うと、唯先輩が手を打つ代わりに前腕を打って言う。

 「あ!番茶と砂糖がちょっとだけポケットにあるよ。
  なんか、帰りのトラックに乗る前、慰労品とか言ってもらったよ」

 「じゃあ、さっそくお茶にしますか?」

そう言って、私が席を立ってお茶の準備をしようとすると、
ムギ先輩が目を輝かせて笑っている。

 「フフフ、梓ちゃん!ようやくティータイムの素晴らしさを実感してくれたわね?」

 「ち、違います!今日は新しい節目だからです。
  あ、そうだ!納期!今日の検品をちゃんと終わらせましょう!
  納期に遅れたら大変です!ティータイムはそれからです!」

 「え~、あずにゃん厳しいよ~」

そう言って、私は芋のツルが入っていたアルマイト食器を片づけ、樹脂製品を机上に並べる。


165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 22:39:17.22 ID:W/Ns2wUZ0


唯先輩が加わったおかげだったのか、検品は日没前に終わった。

その後、夕食の時間が近かったけれど、
私たちは久しぶりに全員揃って、ティータイムを楽しんだ。

砂糖と、化学実験室から拝借したアルコールランプと重曹で、
私は先輩方と一緒にカルメ焼きを作って、そして番茶を飲んだ。


ちょっと焦がしてしまって苦かったけど、それ以上に、甘く感じた。

                            [第10話 終]


166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 23:01:06.53 ID:W/Ns2wUZ0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第11話「企画!」をお送りします”


167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 23:02:04.10 ID:W/Ns2wUZ0


こんにちは。平沢憂です。
やっと、お姉ちゃんが帰ってきました。
今度出征する私と行き違いにならなくてよかったです。

あの日の夕方、お姉ちゃんと再会してびっくりしました。
だって両手がトルソみたいなんですよ?
でも、もちろんお姉ちゃんはお姉ちゃんです。

軍事教練では配属将校の人が“一人十殺”なんて言っていますが、
私には無理です。きっと十人じゃ足りないと思います。
お姉ちゃんをこんなつらい目に遭わせた敵は、絶対に許せません!

その日は外泊許可があったので、そのまま一緒に帰りました。
夕食はハンバーグを作りたかったのですが、お肉が手に入らないので、
近所の公園でキジバトを捕まえてしめました。
お姉ちゃんに「あーん」して食べさせると、とてもかわいかったです!
その後、お風呂に一緒に入って、体を洗ってあげました。

お姉ちゃんは、ずっと遠慮していましたが、
今日だけは、ということで甘えてもらいました。
私ももうすぐ出征でいなくなっちゃいますし…。


168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 23:03:31.32 ID:W/Ns2wUZ0


翌朝、お姉ちゃんを起こしにいきました。
出征前と同じようにまたギー太と添い寝をしていました。

ギー太は、埃がかぶらないようにケースにしまっておいたのですが、
口と両腕を使ってなんとか開けたのでしょう、
唾液でベタベタになったケースが壁際に落ちていました。

「言ってくれれば開けてあげたのに…」

一瞬、そう思いましたが、
私に少しでも手間を掛けないようにというお姉ちゃんの心遣いを感じて、
そして、お姉ちゃんの満足そうな寝顔を見て、朝から心が少し温かくなりました。

お姉ちゃんは、工廠での暮らしを楽しみにしているようです。
病室では軽音部の皆さんと一緒なので、
「毎日合宿みたいで面白そうだね!」と言っています。
私も、お姉ちゃんに負けないように頑張ります!


(のち、彼女は舩坂弘の再臨と畏怖されることになるが、それはまた別の話である)


169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 23:06:15.05 ID:t/vf1kme0

安心の憂選手


170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 23:08:00.22 ID:W/Ns2wUZ0


放課後ティータイムの活動再開を決めて数日。


「…じゃあ、今日はこれだけ検品お願いしますね」

いつものように第32検品室では検品業務が行われている。
せっかく活動再開を決意したとはいえ、冷静に考えればそれは容易なことではない。

活動に割ける時間などないほど残業は常態化している。
それに時節柄、活動の内容にも何かと制限があり、
「電気を節約しろ」だの「士気高揚に貢献しろ」だのと窮屈だ。

そもそも、いま言ったような理由で、
出征前から軽音部の活動はほとんど休止してしまっていた。
そして、その状況は、戦局とともにさらに悪化しているのが正直なところだった。


171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 23:10:19.55 ID:W/Ns2wUZ0


そんな日の昼休み。私も例によって先輩方とともに検品室に一緒にいる。

「ねえねえ、結局、いつ活動するの?」

唯先輩が昼食のサツマイモを食べながら言うと、澪先輩が半ば諦めがちに言う。

「…そうだなぁ。何しろ時間がないしなあ。
 そもそも業務や行事に直接関係ない活動って、許可されるのか?
 このままじゃ、戦争が終わるまで何もできないぞ。
 梓の出征までに何とかしたいけど…」

「でも、逆に言えば、業務なり行事なりに関係すれば、
 活動できる可能性はあるのよね?」

ムギ先輩が、一縷の望みをつなぐように、場の空気を盛り上げようとする。


「じゃあ、行事を作ってそれに合わせて活動すればいいんだよ!」

「行事を作るって、どうするんですか?今年は文化祭もありませんし…」

唯先輩の提案を潰すようで気まずかったが、私は当然の疑問を口にした。
澪先輩が、見えない目を宙に泳がせながら言う。

「…となると、一番理由を付けやすいのは、今度の二年生の出征かな」


172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 23:14:16.51 ID:W/Ns2wUZ0


 「出征にかこつけるのはちょっと気は進まないけど、
  せっかくだから、何かできないかしら?」

ムギ先輩がさらに話をつなぐと、唯先輩が行事の検討を促す。

 「じゃあ、出征の壮行会みたいなので演奏するのはどうかな?何か元気が出る曲!」

ずっと右腕を左脇に挟むような腕組みをしていた律先輩が、指を折りながら数える。

 「んん~、じゃあ、仮にやるとしたら曲の条件としては、こんな感じか?
  一つ、軍歌か行進曲などであること、
  二つ、敵性歌謡でないこと、
  三つ、簡単で練習しやすいこと
  四つ、知名度があること、
  五つ、盛り上がること  …ってとこかな」

 「おい、一番重要な条件が抜けてないか?
  私たちは吹奏楽部じゃないんだぞ?軽音楽に向いてないと…」

 「六つ、軽音楽に向いていること。もう私の指じゃ足りねーし!」

澪先輩が口を挟むと、指折りでは対応しきれなくなった律先輩が、
業務日報の余白に条件を書き出し始める。

 「…私、メチャクチャ意気込んでおいてなんだけど、
  こんな条件に合う曲ホントにあるのかな?」

唯先輩が早くも意気消沈している。


173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 23:21:20.67 ID:W/Ns2wUZ0


もうとっくに本来の昼休みは終わって勤務時間になっているが、
それで素直に引き下がる私たちではない。

そのあたりは、本来の部活動の時間をティータイムにしていたときと変わらなかった。

(この熱心さが出征前からあればなぁ…)

私は内心で少し苦笑したけれど、でも、今からでも遅くはないんだと確信した。

 「言い出しっぺが落ち込んでてどうするんですか!」

私は叱咤するが、唯先輩は早くも思考停止モードだ。

 「まず軍歌とか行進曲っていう時点でハードルが高すぎだよ~」

 「ドラムやってるから何となく知ってる軍歌はいくつかあるけどな。時節柄、意外と知られてるさ」 

律先輩は楽観的なことを言うが、澪先輩とムギ先輩が難色を示す。

 「そういうもんか?一、二年生はあまり知らないと思うぞ。好きこのんで聞く人は少ないだろうし」

 「それに軽音楽に向いている曲となると… 私が編曲してもいいけど、時間的に厳しいかも」


174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 23:24:45.36 ID:W/Ns2wUZ0


さらに話し合いは迷走する。

「やっぱり軍歌とかに知名度を求めるのって絶対無理だよね!」

「あー、でも結構有名な曲あるじゃん?替え歌だけ知られてるのとか」

「『リパブリック賛歌』や『ボギー大佐』あたりかしら」

「ムギ先輩がその替え歌知ってるなんて意外ですね」

「フフ。だって面白いじゃない」

「でもそれ、替え歌で思い出し笑いする人が必ずいるだろ?」

「それは絶対ありえますね…」




─────────────────────
http://www.youtube.com/watch?v=04c9iwbFYIQ


175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 23:28:00.19 ID:W/Ns2wUZ0


意見が出尽くして、全員、しばし黙考する。

やがて校庭から、鼓笛隊の練習する曲が聞こえてくる。
前線への進軍を急かされているようで、重苦しい気分になる。

 「鼓笛隊の練習を聞くと、なんだか焦りますね…」

ムギ先輩も両手で頬づえをしてうなっている。

 「そうね、早くしないといけないけど、条件が厳しくて…」

 「もう手も足も出ないよ。あ、足は出せるけどね」

 「うまいこと言ってる場合かっつーの!」

すでにお任せモードに入った唯先輩のジョークに、律先輩が突っこむ。


176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 23:42:33.02 ID:nyj3R4RhO

支援射撃



177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/15(日) 23:56:13.56 ID:Gl+vzGOm0

さるさん?
支援


179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 00:00:52.78 ID:ma4sc4GF0

すまんさるさん。
--------

澪は、千尋の闇の中で、鼓笛の音色に意識を集中させていた。

(おなじみの曲だな。私たち三年生の出征の時にも使われてた。
 二年生の壮行会でも再利用するんだな。

 しかしこの曲はどこかで、
 全く違うアレンジというか音色というか…

 確かに軍歌なんだけど、
 戦争が始まるより前にも聞いたことがあるような…)

記憶の糸をたぐり寄せて聴覚神経と結びつけていく。
頭の中の引き出しを開けてはその中身をひっくり返す。

何度かの試行錯誤を繰り返すと、閃光がひらめいた。
混線していた電話から雑音が消えるように意識が冴え渡る。

澪は音に意識を集中できることに、ほんの一瞬だけ、喜びを感じた。
そして、ずっと沈思していた澪は興奮してにわかに叫ぶ。

 「…………この曲だ!」


180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 00:02:46.22 ID:ma4sc4GF0


私は、その意図が分からずに間の抜けた問いを返した。

 「この曲って、どの曲ですか?」

 「いま流れてるだろ。よく聞いてくれ。わからないかこの曲?
  律、お前も壮行会でやってただろ?」

澪先輩はなおも要領を得ない私たちにまくしたてるが、
話を振られた律先輩は、けだるく気の抜けた返事をする。

 「…あー、やったっつーかやらされたわ。
  “ジョニーが凱旋するとき”だっけ。軍歌だね確かに」

 「バカ律!なんでそこまでわかってて気付かないんだよ!
  確かにそうだけどさ、それ以外でも聞いたことあるだろ。
  そうだ、タイトルを英語の原題に戻せ!」

 「?………澪!お前、すごく目の付け所がいいな!視野が広い!」

怪訝な表情をしていた律先輩が急に、我が意を得たというように応じる。

 「ふん、目もないし視野もゼロだけどな。そのぶん聴覚が研ぎ澄まされてきた気がするよ」

 「それだけ憎まれ口が叩けりゃ十分だ。いや、この条件に合う曲はなかなかないぞ」

 「そう。"When Johnny comes marching home"だ」


181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 00:04:19.55 ID:ma4sc4GF0

 「もともと軍歌でぇ、
  しかもアメリカの歌でぇ、
  短い曲でたくさんカバーされててCDや楽譜もあってぇ、
  映画とかではよく使われてるから曲自体は意外と知られててぇ、
  元はちょっと暗い曲なはずだけど結構テンション上がってぇ、
  そして軽音楽向きでぇ、っと!」

条件を数えて手指が足りなくなった律先輩が右の小指を立て直しつつ微笑む。
私と唯先輩とムギ先輩は、二人の高揚した会話に取り残されあっけに取られている。

 「この様子だと、私と澪以外は知らないみたいだけど意外だなあ。マジで知らない?
  "♪When Johnny comes marching home again, Hurrah! Hurrah!"って」

 「それ、イングリッシュ・シヴィル・ウォーの歌い出しですよね。ザ・クラッシュの。
  なんとなく似たようなメロディですけど、全然軍歌じゃないんじゃ…」

律先輩が歌った歌に、私が冷ややかに反論すると、目を丸くして吹き出す。

 「ププッ!おいおいおい、梓、そりゃワザとボケてるとしか思えないぞ」


 「似たようなメロディ、っていうより、少なくとも歌い出しは基本的に同じだよ。
  だってその曲、"When Johnny comes marching home"が原曲なんだからな」

 「そ、そうだったんですか…全然気付きませんでした…」

澪先輩が苦笑しながら説明するのを聞いて、私は赤面する。


182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 00:07:08.78 ID:ma4sc4GF0


 「梓、もしかしてライナーノートちゃんと読んでないとか?
  原曲知らないとか片手落ちもいいところだ。私が言うと説得力あるだろ?」

 「ま、まあ、律先輩が言うと説得力ありますね…
  実は、中古の輸入盤を買って、英語を読むのが面倒で…」

律先輩の突っこみに私が狼狽している間に、ムギ先輩が顎に手を当てながら記憶を探っている。

 「私も聞いたことがあるような気もするけど、自信はないのよね…
  歌詞も違うし、もっと物悲しい感じだったわ」

それに律先輩がさらに、良い質問だと言わんばかりに食いつく。

 「それ、もしかして"Johnny I Hardly Knew Ye"のほう?
  まあ、イングリッシュ・シヴィル・ウォーの原曲の原曲みたいなものがあるんだな~これが」

澪先輩がさらに説明を加える。

 「その軍歌の元になった民謡があるんだよ。その曲名がそれ。
  メロディもほぼ一緒だ。歌詞は全然違うけど」

 「あら、そうだったの?軍歌なんて全然知らなかったから」

 「こっちもかなりカバーされてるけれど、
  歌詞の内容的に出征前の行事でやったら懲罰ものだな。きっと」


183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 00:10:27.83 ID:ma4sc4GF0


そこへ、律先輩が悪戯っぽい笑みを浮かべながら言う。

 「でも私たちにはある意味ピッタリな歌だろ。隠しといて皮肉たっぷりに歌い上げてやれ!」

唯先輩は、全然知らなかったらしく、首をしきりに頷かせ感心している。
それに律先輩が突っ込むと、澪先輩がさらに突っ込む。

 「勉強になったよ!私も映画かなんかで聞いたような気はするけど。
  …あ、そうだ!なんか刑務所のお風呂で口笛で吹いてたよ!」

 「『塀の中の懲りない面々』かよ!なんで洋画じゃないんだよ。渋すぎるだろ…」

 「でも、それだけの情報で分かる律もどうかと思うぞ…」


その日、私たちは検品業務そっちのけで、活動再開のための話し合いを重ね、
演奏の曲目だけでなく、行事全体の次第も考えた。

おかげで、検品が終わったのは、日が変わってからだった。

納期を守れず、検品室長の律先輩は検査課長から後日たっぷり叱られたらしい…

                                 [第11話 終]


184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 00:13:48.73 ID:ma4sc4GF0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第12話「役人!」をお送りします”


185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 00:16:54.28 ID:ma4sc4GF0


学事課執務室。

 「なるほど、ね…」

そうつぶやく学事課長席には、和がいる。
そして、その周りを軽音部員の面々が、やや緊張した面持ちで取り囲んでいる。

今や彼女らの関係は友人同士でなく、決裁権者と申請者だ。
自分たちが懸命に考えた企画を、正式な活動そして行事として、
認めてもらえるかどうかの関門だ。

『桜が丘支廠・桜が丘女子高等学校共催 出征決起大会』

和はこのように題された企画書を右手で持ち、
左手であごを支えながら熟考していた。

まあ、軽音部にしては考えて練った企画だ。
企画の趣旨自体には反対する理由はない。

軽音楽に眉をひそめるご老体もいるにはいるだろうが、
士気高揚を方便にして軍歌を演奏すればどうにかなるだろう。


186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 00:18:47.38 ID:ma4sc4GF0


しかし、それは本質的な問題ではない。

発表が許されるとしても、その練習の時間が取れなければ意味がない。

だが、今の軽音部員たちは、軍需生産局の人間。
他部署から手を突っ込んで人事を動かし軍需生産業務から引き離し、
練習時間を作ってやるのは生半可な手段では不可能だ。

実現する難しさは、針の穴を通すようなもの。
まばたきと言うには長すぎる時間、和は目をつぶって沈思する。



(時には、非常の、そして、非情の決断もやむを得ない…か)


187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 00:21:25.38 ID:ma4sc4GF0


和は、持っていた企画書におもむろに左手を添えると、くしゃくしゃに丸め、
あざ笑うような溜め息をつきながら放り投げた。

「却下。余計な仕事増やさないで。忙しいんだから」

その様子を目の当たりにして、軽音部員たちは唖然として言葉を失う。


「和ちゃん!何てことするの!?」

ようやく、唯が悲憤を込めてなじると、
それに呼応して皆も和を非難し、あるいは説得し、懇願する。

「壮行会があるんだからそれで十分でしょ?
 ただでさえ物資供給が苦しいのに、過剰投資をする余力はないわ」

「そういう問題じゃねーだろ!何かしてやりたいって気持ちが大事だろ!?」

「和、お前の力が必要なんだよ!
 そういう原則を曲げるのは好まないだろうけど、力を貸してくれ」

「そうよ!文化祭も開けないのだから少し融通してくれても…
 無理は承知しているのよ。そこをどうにか!」


188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 00:25:56.22 ID:ma4sc4GF0


しかし。

 「申し訳ないけれど、そういうセンチメンタルな人情話で
  仕事が進むなら何の苦労もないわ。もうすぐ会議があるから出てって」

そう言って、和は未決裁の書類の束をつかみ取り、
その中身もろくに見ず、決裁印を押していく。

真鍋、真鍋、真鍋、真鍋、真鍋…

途中、和は顔どころか目線すら向けずに言い放つ。

 「…あなたたち、いつまでそこに突っ立ってるの?邪魔。さぼってないで検品業務に戻りなさい」

ふと、流すように書類に判を押していた和の目線と手が止まる。

 「ちょっと庶務係長。この“水道使用料の増額修正”って何なの?
  予算の範囲内でお願いっていつも言ってるでしょ。
  あなたがしっかり見てないからいけないんじゃない。
  経理課に頭下げるのは課長の私なんだから!」


軽音部員を無視して仕事を進める和の様子を見て、律が心底軽蔑するような口調で挑発的に罵る。

 「その仕事、ハンコと、下げるしか能のない頭と、怒鳴る口さえありゃ、
  誰でもできるじゃんか。澪に代わってやれ。文字通りの盲判だよ。
  あー、澪にはこんなゲスな仕事は向いてないか。ハハハ」


193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 01:22:03.17 ID:WGPqH9BmO

期待!


192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 01:14:11.72 ID:5Vi1ZGpHO

しえんしえん!


198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 03:44:35.35 ID:8jHyRRHs0

保線


199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 04:11:22.83 ID:ToNKdvrA0

保守


201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 06:51:32.59 ID:nYMDP5Ju0




202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 08:32:16.14 ID:nYMDP5Ju0




203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 09:23:18.08 ID:5mu1jBUDO




204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 10:05:33.31 ID:nYMDP5Ju0




209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 13:05:55.06 ID:HKUh2wRSO

アメリカは味方…なんだよな?
確かにどこの国とやり合ってるか分からんな、>>1の意図なら別に良いけど


210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 14:29:17.11 ID:2/k7MkPEO

台湾当たりで海戦
九州宮崎で戦闘状態で今の時期ときたら…お察し国じゃない?
ほし


215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 16:31:50.97 ID:ma4sc4GF0

すまん今北>>1だ。初めて一夜明けてスレが残っていて感涙。感謝。
なお交戦国はあんま重要な要素じゃないが
序盤のEEZとかヘリの機種とかチョコの包み紙の文字とか横山光輝のマンガでお察しを


216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 16:34:09.12 ID:ma4sc4GF0


もともと気まずくなっていた執務室内の空気が一気に強ばる。

軽音部員たちはもちろん、学事課の課員たちも固唾を飲んで、
和と律を見つめる。

 「お、おい、律!言い過ぎだろ!」

 「澪、お前をダシにして悪かった。けど、この小役人にはお灸をすえないと。
  そのすきっ歯、憂ちゃんにやられたんだってな。いい気味だ。ダッセぇの!」

 「律先輩、落ち着いてください!何も喧嘩しにきたわけじゃないんですよ!」

 「……もはや聞き捨てならないわ」

軽音部員たちを無視して机に向かっていた和が、
ようやく、険しい表情をして上半身をねじり律に向き直る。
その顔を上から眺めながら、さらに律がせせら笑うように言う。

 「ようやくこっち向いてくれたな。
  その様子だと、例の噂もまんざらウソとは思えねーし。
  こちとら手足ちょちょぎれたりしてんのに、いいご身分だこと」

 「そんな噂に惑わされるなんて、愚かね。
  大体、ケガして帰ってこいなんて、誰も命令してないわ」


218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 16:36:00.47 ID:ma4sc4GF0


 「ふざけんなっ!好きこのんでケガするヤツがいるか!」

律は和の襟元を右手でつかみ、怒りの籠もった目で和を見据えるが、
和もまた、蔑むような目つきで律を睨み返した。

 「…こんな真似してどうするの?その義手で殴られたらさぞ痛いでしょうね」

 「和ちゃん!りっちゃん!二人ともやめて、やめてよぉ…」

唯が狼狽しながら哀願する。が。

 (ペッ!)

 (っ!)

 「ふん…素手どころか義手でも触れたくないな」

律は、まさに唾棄すべき汚物を見るような目で和を睨み付け、
その顔に唾を吐きかけた。


219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 16:36:57.63 ID:ma4sc4GF0


和は、眼鏡の縁から滴る唾液を拭いもせず、律を冷ややかに睨み返す。

 「…律、正直言って見損なったわ」

 「和、その言葉、そっくり返す」

 「本件は懲戒か懲罰の対象よ。覚悟はしておくことね、田井中室長」

 「ご自由にどーぞ。木っ端役人の真鍋課長殿!」

 「…そうなんだ。じゃあ私、会議室行くね」

和はそう言い捨てると、律の右手を乱暴に払いのけ、
会議資料をひったくるようにつかみ取って、学事課執務室を去っていった。


220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 16:38:38.46 ID:ma4sc4GF0


主を失った学事課執務室に、気まずい沈黙が満ちる。
そこに、少しずつ、課員たちが小声で囁き合う声が混じり始める。

憤りを抑えきれない律が、呼吸を整えながら言う。
澪と紬も、落胆と驚きを隠しきれない。

 「和のやつ、確かに前から融通が利かなかったりしたけどさ、
  曲がったことが嫌いっていうだけで、あんな人情のないやつじゃなかったはずなのに…」

 「もう、和も完全に“支廠の役人”になってしまったのか…
  この狂った組織で生き延びるにはああなるしかなかったのかな…」

 「…人は変わるものだけど、こうも変わってしまうものなのね」

唯もまた、くしゃくしゃになった企画書を両腕で拾い上げながら、
幼馴染みの豹変ぶりを目の当たりにして、肩を震わせていた。

 「和ちゃん、ヒドい、ヒドいよ…。こんなの、私の知ってる和ちゃんじゃないよ…」


221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 16:40:25.73 ID:ma4sc4GF0



(第一段階は一応成功ね。殴られなくてよかった…これ以上前歯が抜けたらサマにならないわ。
 挑発に乗ってくれた軽音部の面々には悪いけど、ここからが本番。
 海千山千の老獪な小役人どもを、手玉に取れるかどうか…)

私は、そう考えながら、会議室に向かう。



──桜ヶ丘支廠会議室

廠議で、いくつかの報告事項、討議事項が処理される。
支廠長が出席者に意見を促す。

 「…他に、何か提案することはないかな?」

私は、挙手して発言する。緊張のあまりのどが渇く。

 「はい。第32検品室の田井中室長以下について、更迭と懲罰を求めます」


222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 16:43:13.75 ID:ma4sc4GF0


私が意見を述べると、管財課長が続きを促す。

 「ああ、廠議でここに来る途中、廊下を歩いていたら聞こえましたよ。
  なにやら一悶着あったようですが、それと何か関係が?」

 「ええ…。お恥ずかしいことですが、
  活動に関する申し出を却下したところ、腹いせに侮辱と暴行を受けまして。
  組織の秩序を保つためにも、
  同席しながら制止しなかった室員等も含め、連座して処分すべきかと」


副支廠長が片方の眉を曲げて和に問う。

 「…それは事実かね?」

 「はい。先ほど管財課長がおっしゃったとおりです。必要とあらば居合わせた課員に問い合わせても構いません」

そこに人事課長が眼鏡を拭きながら質問する。

 「では、処分を下さねばなりませんが、いかがしましょうか。
  詳しくは分かりませんが、室長は戒告、他の室員は厳重注意といったところですか」


223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 16:45:06.31 ID:ma4sc4GF0


ここだ。ここで人事課、そして総務会計局からから主導権を奪わなければならない。

私は、慎重に言葉を選びながら、議論を誘導する。
憤りを混ぜつつも、衷心から述べるような声色。

 「ならば、教育局に身柄を預けて頂けませんか?
  戒告して始末書を書かせても、ああいう輩は、始末書一枚の重さが分かってません。
  性根からたたき直さないといけません。教育上の懲罰が必要です」


軍需生産局長が難渋する。

 「しかしィ、今のご時世、労働力は少しでも確保したいもんでねェ…」

 「元々生産性の低い連中で、管理コストもバカにならないでしょうし、
  さほどの損失にはならないのではないかと。
  組織全体の秩序維持を考えれば許容すべき損失では?」

腹の探り合いのようなやりとりが続いた。

冷静を装いつつも、私の心臓は狭心症の発作のように締め付けられる。


224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 16:46:26.78 ID:ma4sc4GF0


総務会計局長でもある副支廠長は、オールバックを掻き上げてうなった。

「ふ~む、なるほどねぇ…」


副支廠長は、このように考えを巡らす。

(面倒なことだ。ついこの間、ムカゴ盗みの非行があったとはいえ、
 軍需局の一職員に懲戒処分を下したなぁ…。

 総務局人事課からまた軍需局の職員に処分を下すとなると、
 軍需局の我々への心証も悪いだろうし…。

 教育局で引き取って懲罰をしてくれるなら、
 総務局が手を汚さずに、一応、組織全体の秩序も保てるか…。

 仮に、教育局の手に余るようなら、そのとき対処すればいい。
 あわよくば、それを理由に教育局に貸しを作ることもできるだろう)


そして、それはまさに私の読みどおりだったようだ。


225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 16:49:01.78 ID:ma4sc4GF0


副支廠長はこう結論づけて、支廠長に進言する。

「綱紀粛正のためにはやむなし、か。
 支廠長、私も学事課長の提案は理にかなうと思います」

「君がそう言うなら問題あるまいよ。それでいい。
 軍需局にも特に異論はないね?」



老獪な狸親父どもの狡知に対して、初めて、私は勝利した。

(憎まれ役を買って出た甲斐があったわね
 ただ、みんながそれを理解してくれるかはわからないけど…)

これで、軽音部員を現在の業務から引きはがせる。
なんとか練習だってできるだろう。
私は内心密かに胸をなで下ろしながら、今後の策に思案を巡らせた。

                              [第12話 終]


226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 17:01:11.53 ID:ma4sc4GF0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第13話「懲罰!」をお送りします”


227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 17:06:17.00 ID:ma4sc4GF0


学事課執務室での騒動から数日後。

作業室で布地の裁断をしていると、平板な声で放送が響く。

“庁内放送、庁内放送。以下の者は軍需生産局長室に出頭せよ。
 第32検品室室長、田井中律。検品員、秋山澪、琴吹紬、平沢唯。
 第21作業室、作業員、中野梓。
 繰り返す。以下の者は…”

 「あれ?いま梓も呼ばれたよね?何かしたの?」

純がマスクをあごにずらして私に話し掛ける。

 「今のやっぱり私だよね…」(あの騒動のことか…先輩方も呼ばれてたし…)

私が溜め息まじりにつぶやくと、憂も心配そうに言う。

 「お姉ちゃんとかも呼ばれてたけど、何だろう?」

 「…何だろうね?行けば分かるよ」

憂は唯先輩のこととなると、途端に我を失ってしまう。詳細は言わないほうがいいだろう。

私は適当にはぐらかして検品室に先輩方を迎えに行き、軍需生産局長室に向かった。


228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 17:21:54.30 ID:ma4sc4GF0


──軍需生産局長室

初めて顔を見る軍需生産局長の間延びした声が響く。

 「おー、君たち良く来たネ。そこに並んで。
  おイタしたようだが、いかんヨ。もう子どもじゃないんだから…」

義足を引きずって律先輩が一歩前に出る。

 「すみませんが、責めを負うのは室長の私だけで十分です。直接手を出したのは私ですから」


 「…そういうわけにもいかないのよ。組織全体の秩序を維持しないといけないから」

背後から入室する足音がして、聞き慣れた、しかし今やいまいましい声がする。

 「和ちゃん…」

唯先輩が心細そうな声を上げる。
律先輩は無言でにらみ付け、ムギ先輩は歯がみし、澪先輩はうつむく。


229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 17:23:51.63 ID:ma4sc4GF0


軍需生産局長が和先輩を手招きしながら言う。

 「ああ、それで、結論から言うと、君たちは教育局さんに引き取ってもらうヨ。
  懲罰という形でネ。もちろん現在の検査室や作業室の仕事は解任だ。
  具体的な懲罰内容はこちらの学事課長さんにお任せしてある」

澪先輩が緊張して生唾を飲む音が聞こえた。無理もない。
要は、和先輩のなすがままにされるということか。
今やこの女は、まさしく工廠の小役人だ。どんな報復を受けるかわからない。


 「…軍需局長、お手数をかけました。後は教育局にお任せください」

和先輩が深々と軍需生産局長に礼をして、私たちに向き直る。

 「あなたたち、昼まで病室で待機よ。中野さんは作業に戻って。
  午後からは懲罰房で懲罰を受けてもらうから」

事務的に何度も発せられる“懲罰”という響きに、背筋が寒くなる。


230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 17:32:32.16 ID:ma4sc4GF0


──昼食後、学事課執務室前

 「全員揃ったわね?じゃあ、懲罰房に案内するわ」

誰も返事をしない。ただ、黙って和先輩の後ろを足取りも重くついて行く。

 「和…悪いのは私だけだろ。今更だけど他の部員はなんとかならないのか?」

途中一度だけ、律先輩が口を開いたが、これに対する返事もまた、なかった。

そして着いた先は、旧第32検品室と同じ部屋。つまりは元の部室だ。
ただし、その入口には真新しく『懲罰房』の札が掲げられている。

せっかく、軽音部の活動を再開しようとした矢先なのに、
その部室だった部屋で懲罰を受けることになろうとは。

他にも空いている部屋はあっただろうに、これも懲罰の一環なのか。
サディスティックで悪趣味な扱いに、軽音部員の誰もが、この女を呪った。

 「懐かしの部室で懲罰を受けられるなんて、最高でしょ?」

そしてこの女は、私たちの心中を見透かしたようにあざ笑う。
これから拷問まがいの仕打ちを受けるのだろうか?
もしかすると何か恐ろしい器具でも置いてあるのか?

懲罰房の扉が開けられ、私たちは小役人の手で中に押し込まれる。


231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 17:37:09.67 ID:ma4sc4GF0


 「あ…」

室内の光景を見た私たちは絶句する。

ただ一人、その光景の分からない澪先輩が、不安に満ちた問いを発する。

 「お、おい、どうなってるんだよ…何があるんだよ…」

 「…楽器よ。私たちの」

ムギ先輩が恍惚とした表情で言う。
そう。私たちそれぞれの楽器がここ、部室にあった。

和先輩がしてやったりという表情で言う。

 「“公用”で必要だからみんなの家から強制的に“徴発”させてもらったわ。
  じゃあ、具体的な“懲罰”の内容を伝えるから聞いて。

  “来たる明治節、出征兵士を送り、帰還兵を迎えるため、
    決起大会兼慰問大会を工廠と高校の共催で行う。
    ついては、その会で演奏を発表すること。
    曲目は"When Johnny Comes Marching Home"など”

  以上よ。

  ちなみに今言ったように、非公開情報だけど、近日中に、
  三年生の中隊全体が再編成のため戻ってくる予定だから」


233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 17:39:54.26 ID:5Vi1ZGpHO

のどかちゃんイケメンすぐる


234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 17:42:48.33 ID:ma4sc4GF0


 「和ちゃん…それって、どういうこと?」

まだ何が起きたのかいまいち理解していない唯先輩が問うと、和先輩は眉を寄せて笑う。

 「フフ、今言ったじゃない。要は、あなたたちがこの前書いた企画書のとおり。
  まあ、三年生も帰ってくるっていうのはちょっと企画書と違うけど、良い知らせでしょ?
  一日中練習してね。あと一か月もないから。
  これは“懲罰”だから、手を抜いたら承知しないわよ!」

私たちはここまで来てようやく事態の全貌を把握する。
和先輩は、一芝居打ったのだ。私たちと、狸親父どもの両方に対して。
私たちは、この人の手のひらで踊らされたのだ。

 「律、あのときはごめんなさい。私の挑発に乗ってくれてありがとう。
  ここまで上手くいったのもあなたのおかげよ。
  こうでもしないと検品業務からあなたたちを解放できなかったから」

 「はは、全然褒められてる気がしないな…」

和先輩の礼に、あきれ顔でつぶやく律先輩。
そしていたずらっぽい笑みを浮かべながら、和先輩がみんなの顔を見て言う。

 「ね、私の言ったとおり、
  懐かしの部室で“懲罰”を受けられるなんて、最高でしょ?」

確かに、今の私たちにとって、これは最高の“懲罰”だ。


236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 17:50:18.81 ID:ma4sc4GF0

そして、私は律先輩の指示で必要書類を書いて、和先輩に提出する。
その後、ふと気付いて、上機嫌な律先輩に話し掛ける。

 「律先輩、まずくないですか?」

 「どうした書記。何がまずいんだ?」

 「“納期後ティータイム”って新バンド名です。名前を変えること自体は心機一転ってことでいいんですけど…」

 「なんでだよ。書類は通ったんだから問題ないだろ。実際、いまはもう放課後の活動じゃないんだし。
  “納期”ってのが工廠の管理体制へのアテツケに聞こえるとか?細かいこと心配するなって」

怪訝な顔をして私の顔を覗き込む律先輩に、私は淡々と反論する。

 「元検品室長らしい考えですけど、もっと単純な話です」

 「単純な話ねぇ。一体どんな話?」

 「あの、略称が……」

 「……あ」

気まずそうな顔をする律先輩から、私は溜め息混じりに目をそらす。

 「やっぱり全然意識してなかったんですね……」

 「いっそのことさぁ、略称の後ろに何か付ける?“東日本”とか」

 「絶対やめてください!」
                             [第13話 終]


237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 17:51:52.67 ID:33J7YVqoP

NTTか


238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 17:52:25.64 ID:MoN7mzDb0

NTTwwwwww


239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 17:56:18.50 ID:ma4sc4GF0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第14話「帰還!」をお送りします”


240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 18:01:17.29 ID:ma4sc4GF0


こうして、翌日から私たち軽音部の活動、もとい“懲罰”が始まった。
ひとしきり練習をしたあと、私はやかんに汲んだ水道水を、湯飲みに注ぐ。

 「みなさん、お疲れさまです。少し休憩しましょう」

 「あー…ドラム死ねる……関節が脱臼する…」

律先輩が左の義手義足を外して放り投げ椅子の背もたれに身を預けると、澪先輩がたしなめる。

 「律、ここで死ねるなら本望じゃないか。
  だいたい、律のドラムは走りがちなんだから、今くらいでちょうどいいんだ。
  私なんか何も見えないんだからな。曲も歌詞もとにかく聞いて覚えるしかないんだぞ?」

ムギ先輩が両手を合わせて目を輝かせると、澪先輩が笑って受け流す。

 「でも盲目のベーシストなんて、現代の検校ね!琵琶法師みたいでかっこいいわ!」

 「はは、ムギ、そんなおだてても何も出ないぞ?」

律先輩がさらにぼやくが、ムギ先輩や澪先輩のあしらい方も大したものだ。

 「あーあ、せめてヒジとヒザが残ってればなあ。
  動作大きくしないといけないし力が入らないし…ムギ、片ヒジくれよ~」

 「ごめんなさいりっちゃん。さすがにヒジはあげられないわ。ヒザが残ってればあげてもよかったんだけど」

 「じゃあ澪!片目と片脚交換してくれ!」

 「なかなか魅力的な提案だな…って、そりゃ無理だろバカ律!」


241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 18:03:51.69 ID:ma4sc4GF0


もはや私が突っこめる内容の会話ではないのだけれど、
もう一人、この会話に入ってこれない人物がいた。

 「………」

唯先輩が珍しく無言だ。無理もない。両手に義手をつけてはいるものの、
ピックの固定はともかく、コードの押さえようがない。
意気込んではみたものの、演奏の体を為さない。
思った以上に状況が厳しいことを実感し、沈んでいるのだろう。

 「唯先輩、大丈夫ですか?
  まだ練習は始まったばかりですけど、なんとかなりそうですか?」

 「……え?うん!なんとかなるよ!なんとかするよ!私とギー太の仲だもん!」

唯先輩はこういう時わかりやすい。残念ながらとても不自然だ。

そして、そんな唯先輩の様子を注意深く見ていた人が私以外にもう一人いた。


242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 18:06:37.25 ID:ma4sc4GF0


その日、紬は斎藤にあらかじめ確かめて家族の在宅状況を調べ、外泊許可を取る。

夜、紬は、自宅屋敷内にある父の書斎で、父と対峙していた。

 「……紬か。“死の商人”に何の用だ?」

机に向かった父は、振り返りもせずに言う。
紬は、その背中に威圧感を覚えながらも声を張る。

 「お父様、私に力を貸してください。友人を、軽音部を救いたいんです!」

 「勝手なことを。私を、いや、琴吹の血を拒んだのは紬、お前だろう」

 「…お願いします!この通りです!」

紬は、車いすから崩れ落ちるようにして地に伏し、父に土下座する。


243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 18:07:46.07 ID:ma4sc4GF0


紬の父は、その物音に一瞬驚くが、手を貸すどころか振り返ることもなく、冷然と言う。

 「恥ずかしくないのか、お前は。自らが口汚く非難した相手に屈するなど」

 「私は、私が正しいと信じることをしているだけです。
  恥ずかしいとか屈するとか、それは私個人の些末な問題です。
  私個人のことよりも、友のことを優先したいのです!助けたいのです!」

紬は、地に伏した姿勢のまま、自らの意志で決然と反論を続ける。

 「だから、私はもう、お父様から、琴吹の血から逃げません。
  お父様も私から逃げないでください。私がお父様を、“死の商人”を動かしてみせます!」

父と娘の間に、鉛のような沈黙が流れた。

そして、父は娘に振り返る。

 「…大義のための礎となる、か。話を聞かせてもらおう。琴吹、紬よ」


244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 18:09:58.05 ID:ma4sc4GF0


───翌々日


 「ねえ。せっかく活動再開したし、久しぶりに楽器屋さん行かない?」

珍しくムギ先輩が音頭を取って言い出す。
みんな、いぶかしい顔をしている。唯先輩と私は当然の疑問を投げかける。

 「え?でもあのお店、出征前からもうずいぶん閉まってるよね?」

 「楽器も品薄でしたし、たしか、店員さんも徴兵されて…」



 「…うふふ、あのお店、うちの系列だもの。特別に開けてもらったの!」


245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 18:32:10.22 ID:ma4sc4GF0


───商店街

物資不足の中、売る物も少ない商店街は、人影もまたまばらだった。
米穀店の周囲にのみ、配給の穀類を求める人の列が連なっている。

楽器店に着くが、正面のシャッターは下りたままだ。

 「こっちよ、みんな。やはり一般向けの営業は難しいみたいで…」

ムギ先輩が裏手の通用口に案内する。

店内に入ると、やはりがらんどうだ。楽器はほとんどない。
それでも、久しぶりに入る楽器店は、懐かしい香りがした。
相当な老境とおぼしき白髪の店員が一人、黙ってレジに座っている。

 「おい澪、レフティは結構残ってるぞ」

 「そうなのか?どれどれ…」

私が弦などを手にとって品定めしながら、律先輩、澪先輩の会話を耳にしていると、
ムギ先輩と唯先輩が、老店員とともに奥の事務室に入っていくのが見えた。


247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 18:37:40.20 ID:ma4sc4GF0


 「…拝見するとなかなか厳しいですな。しかし、やりましょう。
  そのためにお呼びいただいたのですからな」

店員が、唯の両手の義手とギー太を交互に見て、額にしわを寄せながら言う。

 「ありがとうございます。何とお礼を申しあげたらいいのか…」

紬が直角に頭を下げる。車いすから落ちんばかりである。
老店員は笑って対する。

 「紬お嬢様からそのようなお言葉、この老骨にはもったいない」

 「…え?ムギちゃん、どゆこと?」

やはり状況を理解しきれていない唯が紬に問う。
紬は、唯の両前腕に手を添えて応じる。

 「唯ちゃん、残念だけれど、このままじゃムリよ。少なくとも、発表には間に合わないわ…。
  だから、少しだけ、お父様の力を借りることにしたの!」


248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 18:40:20.58 ID:ma4sc4GF0


───夕方

店舗事務室の中には、軽音部員と老店員がいる。

改造されたギー太には、大小様々な鍵盤が取り付けられ大正琴の亜種のようになり、
義手にも様々な電子部品が付け加えられている。
老店員が唯に手ほどきする。

 「コードはそれぞれの鍵盤と、義手のここを合わせて…
  そうそう…で、ここで腕を内側にしぼると…そして…」

 「…すごいね!おじさんどうもありがとう!
  なんだか元の手より上手く弾けそうだよ!
  そうだ!どうせなら手を動かさないでも音が出るようにすればいいよ!」

唯が驚嘆して言いたい放題言っていると、澪が深い溜め息をつきながらぼやく。

 「唯、それならCDでも何でも流しておけばいいだろ。演奏にならないじゃないか…」

 「そうだよね、ごめん!えへへ…」

唯が苦笑いすると、老店員も、軽音部員もみな失笑する。


琴吹財閥が戦後、軍事技術を民生用に転換しさらに事業を拡大するのだが、それはまた、別の話である。


249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 18:45:21.04 ID:ma4sc4GF0


こうして、ようやく練習も軌道に乗りはじめた。

なにしろ“懲罰”なので、手を抜くわけにはいかない。
もちろん、今の私たちには手を抜くなどという考えは微塵もないけれど。

そういえば、三年生が帰還してくるということだったのに、
いつになったら帰ってくるのだろう?
このままでは決起大会兼慰問大会に間に合わない。

そんなふうに気を揉みながら、本番まであと一週間を切った。


練習も最後の追い込み。
でも、“腹が減っては戦はできぬ”なんて、昔の人はうまい言葉を考えたものだ。

唯先輩が昼食のトウモロコシを両腕に挟み、糸巻きのように器用に回転させて食べながら、

 「だいぶサマになってきたよね!」

と言うと、同じくトウモロコシをかじっていた澪先輩が力無くつぶやく。

 「ああ。でも練習するとお腹が空くんだよな…」

 「そうだよ!ボーカルは声出すから余計にお腹が空くんだよ!
  あずにゃん、だからそのトウモロコシちょうだい?」

唯先輩がそう言って腕を伸ばしてくる私のお皿から、私は素早くトウモロコシを取り上げる。

 「ダメです!これは私のです!」


250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 18:49:25.09 ID:ma4sc4GF0


 「…そうよね。お茶やお菓子どころかトウモロコシも満足にないのよね。
  久々に帰ってきたのに、寂しいわぁ」

すると突然、聞き慣れた声とともに懲罰房のドアが開く。
澪先輩と唯先輩が驚きの声を上げる。

 「その声は…」

 「さわちゃん!?久しぶり!いま帰ってきたの?」

 「ええ、そうよ。さっき帰ってきたばかり。3年生は講堂で帰還後の手続きをしているところ。
  こうして見ると、制服も…意外といいわね」

さわ子先生は、左目に眼帯をしている。どうやら一時的なものではなさそうだ。

律先輩は婉曲なのかよくわからない表現で冷やかすが、
ムギ先輩が遠慮がちに確かめる。

 「おお、その格好、まさに鬼軍曹!」

 「先生、その目はやっぱり…」

 「ちょっとね。あなたたちに比べれば大したことないわ。
  クラスのカワイイ教え子たちより軽音部をひいきするつもりはないけれど、
  でも、よりによってあなたたちが揃いも揃って負傷するなんて…」


251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 19:01:51.63 ID:ma4sc4GF0


さわ子先生が、声のトーンを落として言う。

特別に目を掛けていた軽音部員ばかり負傷しては、自責の念に駆られる心境になるのも無理はない。
すると、唯先輩がさわ子先生を励ますように嬉々として言う。

 「でも、結局病室のメンバーが私たちだけだったってことは、
  3年2組のみんなは最後まで無事だったんでしょ?
  さわちゃんは胸を張るべきだよ!名指揮官だよ!」


 「そうだよさわちゃん、シケた顔してるとさらに男運がなくなっちゃうぜ!」

 「ぁあ゛!?なんですって!?」

律先輩のセリフに一転して憤怒の相になり、しかし口角に笑みを残したさわ子先生は、
律先輩のこめかみを両拳で挟んでぐりぐりと締め上げる。

そして、苦悶の声を上げながらも顔は笑っている律先輩。
ムギ先輩も、その光景を微笑ましく眺めている。

 「痛い痛いいだいい゛た゛い゛!助かった命をこんな形で失うとは~!」

 「うふふ、ようやくいつもの先生らしい表情が見られました~」


252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 19:05:44.23 ID:ma4sc4GF0


その光景を想像して笑っていたのであろう澪先輩が、さわ子先生に話し掛ける。

 「…先生、せっかくだから、私たちの演奏、久しぶりに少し聞いていきませんか?」

 「そろそろクラスのみんなを迎えに行かないといけないんだけど、
  …そうね。はるばる帰ってきたんだものね」

"When Johnny Comes Marching Home"のメインボーカルは唯先輩
"Johnny I Hardly Knew Ye"のメインボーカルは澪先輩。
さわ子先生は感慨深げな面持ちで、耳を傾けている。

先生自身、自分が戦地から帰れるとは思っていなかったのだろう。
ましてや、傷ついた教え子たちの演奏が再び聴けるなどとは。

    "…I'm happy for to see ye home, hurroo, hurroo
       I'm happy for to see ye home, hurroo, hurroo
       I'm happy for to see ye home
       All from the island of Sulloon
       So low in flesh, so high in bone
       Oh Johnny I hardly knew ye.…"

…あなたがたと故郷で会えて私は幸せです。
はるかな戦地から還ってきてくれて。
生きて還る者は少なく、骨となる者は多いのだから。

その一節を聞きながら、先輩方とさわ子先生の姿を見て、私もまた、演奏しつつ感慨にふけった。

                                          [第14話 終]


253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 19:11:54.46 ID:ma4sc4GF0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、最終話「ジョニーが凱旋するとき!」をお送りします”


255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 19:16:18.31 ID:ma4sc4GF0


──11月3日、明治節の午後。

被服原料や資材などが搬出され、本来の機能を取り戻した講堂の入口には、
『桜が丘支廠・女子高等学校共催 決起大会兼慰問大会々場』の看板。

ここに、数ヶ月ぶりに、全校生徒の“ほぼ”全員が集まった。

前半は、支廠中心で、通り一遍の支廠長訓辞、来賓挨拶など。
けだるさの漂い始めた頃、ようやく高校中心の式次第に移る。

校長が言葉を詰まらせながら、挨拶する。黙祷を行う。
出征兵の宣誓、帰還兵の謝辞。

そしてついに、軽音楽部の発表。

舞台上の緞帳の裏、それぞれの位置でスタンバイする。

 「やっぱり久々だし緊張するよ…」

 「見えないから大丈夫だよ澪ちゃん!」

 「見えなきゃパイナップル~ってやるわけにもいかないだろ!」

 「うん、澪ちゃん頑張って!私も頑張るから!」

 「みなさん、そろそろ幕が上がりますよ!」


256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 19:22:37.76 ID:ma4sc4GF0


“次は、軽音部による発表です”

アナウンスが終わると、緞帳が上がり始める。
舞台上から眼下に広がる講堂内には、全校生徒が集合している。

特に一年生の座る席のあたりから、若干のどよめきが起こる。
無理もない。面識のない人間が壇上にいる軽音部員たちの姿を見れば。

唯は、マイクを前にして、息を整え、声をだす。

 「テステス…えっと、みなさんこんにちは。お久しぶりです。

  今回は、桜が丘支廠と高校共催の決起大会兼慰問大会っていうことで、
  私たち放課後ティータイム改め納期後ティータイムが演奏することになりました。

  行事の趣旨的に軍歌ってことで"When Johnny Comes Marching Home"、
  邦題では“ジョニーが凱旋するとき”をやるので、
  みんなも一緒に歌ってください。
  途中、Hurrah! ってところは特に元気よくお願いします!」

律はいつか見たような懐かしい光景に安堵する。

 (相変わらず、唯のMCは、安心して聞いていられるな)


257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 19:26:27.11 ID:ma4sc4GF0


 「…で、さわちゃん先生は戦場ではすっごく怖かったんですよ~。
  先生って呼ぶと“隊長と呼べ!”って怒るし。まさに鬼軍曹で。
  あ、さわちゃん鬼軍曹先生がすごい睨んでる!また怒られないうちに始めよ~」

 (…そろそろかな?)

 「…あ、でも考えてみたらジョニーって男の子の愛称だよね。
  女の子なんだから本当はジェーンとかジェニーのほうがいいのかな?
  あ、でも勝手に替え歌にするのまずいよね?」

 (……)

 「ちなみに、歌詞の中で "gay" って単語が出てくるんですけど、
  これは別にアッチの意味の“ゲイ”じゃなくって、元々は“陽気な”って意味なんですよ~。
  なんか20世紀に入ってからってさわちゃんが……」

 「はよ始めんかい!コミックバンドか!」

律がなじると、唯はようやく仕切り直す。


258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 19:28:09.15 ID:ma4sc4GF0


会場から微笑、苦笑が漏れてくるのが一段落すると、唯が言葉を結ぶ。

 「…じゃあホントに始めます!

  これから出征するジョニーたちの元気な凱旋を願って!

  また、傷つきながらも凱旋したジョニーたちの帰還を祝って!

  そして、無言の凱旋を果たしたジョニーたちの魂の安息を祈って!

  全てのジョニーたちへ、この曲を捧げます!

  "When Johnny Comes Marching Home"ッッ!」


─────────────────────

(このような勢いで演奏中)Glittertind


259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 19:36:13.65 ID:ma4sc4GF0


"When Johnny comes marching home again!"

"HURRAAAH! HURRAAAH!"

鯨波のごとき鬨の声が轟く講堂内。

こうしてまた、懐かしい学び舎の講堂の舞台に立てるとは、
舞台上で現に演奏している彼女たち自身も、それ以外の生徒、教師、家族も含め、
誰が想像しえただろうか。

電力不足の折りにもかかわらず、無理をして冷房を全力稼働させているが、
白熱した人いきれは、暦が霜月に入ったのが嘘であるかのように、
それを打ち消して余りある熱量を発している。

久しぶりの数分間の演奏が、長くも短くも感じられた。


260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 19:41:09.10 ID:5mu1jBUDO


\\HURRAAAH! HURRAAAH!//




261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 19:55:19.07 ID:SwGa6Nat0


\\HURRAAAH! HURRAAAH!//



262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 20:03:25.89 ID:ma4sc4GF0


"When Johnny Comes Marching Home"の演奏後、再び、唯がマイクを取る。

 “…では、次の曲行きます!
  あ、でもこれも同じ曲みたいなもので、今やった曲の原曲です。

  "Johnny I Hardly Knew Ye"っていう曲なんですけど、
  私たちみたいに戦地に赴いた兵士が、
  ボロボロになって帰ってくるっていう感じの歌詞で…”

 (おいおい、その曲紹介の仕方はちょっとマズくないか!?
  そこまで詳しく言う必要ないだろ!もっとサラッとシレッとやりゃいいんだよ!)

律はそう思い、唯を制止すべくスティックを投げようとしたが、
視線を感じて舞台袖にふと目を向ける。


263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 20:05:33.48 ID:ma4sc4GF0


すると、

 “そのまま続けて!
  これは「懲罰」だから!”

という大きな段ボールのカンペを掲げた和が満面の笑みを浮かべて立っている。
和としても支廠の狸親父どもへの最大限のアテツケなのだろう。

まさかこの雰囲気の中では、日本史でやった自由民権運動でもあるまいし、
「弁士中止!」ということもできないだろう。
支廠の幹部連どもは、今ごろこの講堂のどこかで、
苦虫を噛み潰したような顔をしているかと思えば、それはそれで痛快だ。

 (学事課長殿のご命令じゃ逆らえませんわな~。一度は捨てたこの命、こちらも最大限協力させてもらいますか!)

律はそう胆を決めて、和にウインクする。


264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 20:10:34.01 ID:ma4sc4GF0


マイクに向かって好き放題喋っていた唯が、一呼吸置いて、言葉を締める。

“…これから前線に行く二年生のみなさんも、どうか生きて帰ってきてください!

 さわちゃん先生の言葉を借りると、「死んだらぶっ殺す」っっ!!!

 っていうことでよろしく!

 じゃあ、"Johnny I Hardly Knew Ye"ッッ!”


─────────────────────

(このような勢いで演奏中)Dropkick Murphys


265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 20:14:17.35 ID:ma4sc4GF0


"Where are your eyes that were so mild!"

"HURROOOO! HURROOOO!"

地底から沸き立つような狂瀾怒濤。
爆風除けでテープの貼られた講堂の窓ガラスすら、
全校生徒の大音声で壁ごと割れんばかりである。
天蓋が落ちるという杞憂すら、現実となりそうなほどだ。

舞台上から改めて三年生の席のあたりに視線を向けると、
ある者は頭に包帯を巻き、ある者は眼帯をし、
ある者は松葉杖をつき、ある者は三角巾で腕を吊っている。

演奏している軽音部員たちと同じような姿になった、
そんな三年生たちも、下級生に勝るとも劣らぬ気勢を上げている。

そして、櫛の歯が欠けたようにちらほらと、生還かなわず遺影を飾られた者の席があった。

いや、紛れもなく、いま彼女らも「無言の凱旋」を果たしたのだ。

願わくは、これが無言の凱旋を果たした者へのレクイエムたらんことを。

そう念ずれば、さらに演奏にも力が宿った。


266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 20:23:04.04 ID:ma4sc4GF0


──演奏後

なおも熱気が冷めやらぬ講堂の舞台上では、
力を出し切った軽音部員たちが、半ば放心状態となっている。

会場の一隅から起こったアンコールの声が、たちまち講堂を包み込む。

演奏できるのは嬉しいが、今の自分たちにとっては、さすがに体力的にきついものがある。
そもそもこの十数日でちゃんと練習できた曲はこの2曲しかない。

アンコールの声の大合唱が響く中、
どうしたものかと、律がまた舞台袖に目線を移すと、

 “さらにそのまま続けて!
  これは「懲罰」だからシッカリやって!”

と、相変わらずカンペを持った和が含み笑いをして立っている。

 (なんで「さらに」とかバンバン書き足してんだ!無理無理無理!)

律はそう主張するように、眉根を狭めて首を左右に素早く振りながら、和に目配せする。

だが、カンペの「懲罰」と書かれたところを二、三度、トントンと指さしながら、
和もまた破顔一笑し、ゆっくりと首を左右に振って、拒絶の意思表示をする。


267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 20:25:09.86 ID:ma4sc4GF0


 (和、ドSだな…こうなりゃとことん“懲罰”されたるわ!
  あとはどうなっても知らないからな!)

破れかぶれになった律は、他のメンバーに呼び掛ける。

 「んじゃ次行くぞ!」

 「ほえ?何やるの?この2曲しか弾けないよ?」

 「"Johnny I Hardly Knew Ye"をやった以上は軍歌でなくてもいいわよね。
  いっそのこと“ふわふわ時間”でもやっちゃおうかしら?」

 「正直、オリジナルは今回全く練習してないから少し不安だな…
  もう一度"When Johnny Comes Marching Home"をやるか?」

 「いや、もう1曲似たようなのがあるだろ。あれならなんとかいけるよな?全員で歌うぞ!」

 「律先輩、それって…」

─────────────────────

(このような勢いで)The Clash - English Civil War


268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 20:28:19.89 ID:ma4sc4GF0


───全校決起大会・慰問大会後の後夜祭。

校庭の中央に焚かれた火を全校生徒が囲みながら、あちこちでグループを作り、談笑している。
もちろん、私たち軽音部もその中にいる。


 「いやー……ひどい発表だったなぁ……」

律先輩が、パイプ椅子に腰を掛けて、義手義足を外してくつろいだまま、
配られた紅白まんじゅうを頬張ってつぶやく。

 「そうですか?うまく合ってたと思いますよ?」

 「おや、いつも手厳しい中野大先生が褒めてくださるとは珍しいね。
  まあ、演奏そのものじゃなくってさ…」


すると、ほうじ茶を飲んでいた澪先輩が苦笑しながら割り込み、ムギ先輩が補う。

 「律が本当に言いたいのはそういうことじゃないだろ?」

 「会の趣旨として、選曲とか歌詞とかが平気だったのか、ってことでしょう?」

 「でも、盛り上がったから大丈夫だよ。結果オーライだよ!
  みんな号泣してたし、私の名MCのおかげだね!」

一見、相変わらず能天気に、唯先輩が両手首でまんじゅうを器用に挟んで、
両手が使えたとき同様に、皮をポロポロこぼしながら食べている。


269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 20:30:55.29 ID:ma4sc4GF0


澪先輩が不安そうに声のトーンを落として言う。

 「でも、"Johnny I Hardly Knew Ye"だけでもまずいだろうに、イングリッシュ・シヴィル・ウォーまでやるのはなあ…
  いっそオリジナル曲のほうがマシだったんじゃないか?とても決起大会とかに似合う内容じゃないよ…」

が、唯先輩が意地悪く突っこむと、
澪先輩はキャンプファイヤーに照らされた顔をさらに赤らめて赤面する。

 「でも澪ちゃんが一番ノリノリで歌ってたよね?
  "Johnny I Hardly Knew Ye"もメインだったし、ある意味主犯格だよぉ~」

 「だ、だって、“赤信号みんなで壊せば怖くない”って律が…」

私はその矛先を律先輩に向けた。

 「そうですよ!そもそもイングリッシュ・シヴィル・ウォーは
  律先輩がやろうって急に言い出したんじゃないですか!
  やってしまったことは仕方ないですけど、もはや軍歌と全然関係ないですし…」

 「はは、だって和がさあ、“「懲罰」なんだからちゃんとやれ”って
  カンペ出してたくらいなんだから、和が何とかしてくれるだろ。
  メチャクチャきつかったよな!あの鬼畜…」

 「誰が鬼畜眼鏡よ。ずいぶんな物言いね。すでに何とかしてあげたわよ。
  ところで、お茶のお代わり持ってきたんだけど」

律先輩が恨み言を言っていると、背後から、聞き覚えのありすぎる声が聞こえる。


270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 20:32:53.98 ID:ma4sc4GF0


 「ブフォッ!」「ムグっ!」

全員が茶やまんじゅうをむせ込む。澪先輩が驚愕して、声の発せられた方向に振り向く。

 「和か!?聞いてたのか…」

 「ま、まだ鬼畜までしか言ってないぞ私は!眼鏡なんて言ってないからな!」

うろたえている律先輩を尻目に、和先輩が溜め息まじりに言う。

 「律、それ言い訳になってないから…。
  この発表、私のクビひとつで済むなら安いもんでしょ?
  あなたたちは“懲罰”をこなしただけなんだから、何の責任もないし、安心していいわ」

 「え?和ちゃん、クビって…」

と唯先輩が状況を確かめようとすると、“元学事課長”はこともなげに、

 「さっき、校長先生、じゃなくて教育局長に辞表出してきたの。
  不適切な発表内容は私の懲罰房に対する監督不行届きです、って。
  それにこの行事で、職権濫用しちゃった。
  未承認の予備費とか電力とか、簿外の物資とか、だいぶ使っちゃったし。
  講堂の季節はずれの冷房とか、キャンプファイヤーとか、このお茶とか、
  おまんじゅうの砂糖や小豆や小麦粉も全部そうなのよ?」

と、隙間の空いた前歯を見せ微笑しながら言う。
全員の、まんじゅうを咀嚼する顎の動きが止まる。


271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 20:35:49.51 ID:ma4sc4GF0


律先輩は、思ったことをそのまま口にした。まんじゅうの皮の欠片がその口からこぼれる。

 「…それ、すごいな」

 「だって、“役に立つ人”って書いて“役人”よ。私はただみんなの役に立ちたかっただけ。
  それに、元々こうするつもりだったから、問題ないわ」

和先輩はさも当然のことをしたように言うが、ムギ先輩が心配そうに眉を寄せる。

 「でも、学事課長って、工廠の公職でしょう?
  それを外れてしまったら、私たちみたいに、前線行きじゃ…」


 「そうよ。でもこれで“徴兵逃れ”呼ばわりされなくて済むし、気は楽ね。
  後輩と一緒なら張り合いもあるもの」

 「ふふ。まあ、この上なく頼れる老兵であることは間違いないな」

澪先輩が、和先輩の言葉を聞いて仕方ないな、とでも言いたげに苦笑する。

 「フフ、失礼しちゃうわね。一学年しか違わないのに老兵って。
  じゃあ、私、他の人にもお茶のお代わり配ってくるから…」

達成感に満ちたすがすがしい笑みを浮かべ、和先輩は去っていった。


274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 21:16:28.56 ID:ma4sc4GF0


再び、全員がキャンプファイヤーに目線を移す。

唯先輩が、改めて目を輝かせながら言う。
キャンプファイヤーの灯に照らされる瞳は、いっそう輝きを増す。

 「でも、“放課後ティータイム”が再結成できてホントによかったよね!」

 「はは、今はその名前じゃないだろ。誰かさんが変えちゃったからな!」

光を失ったその目に新たに熱を宿しつつ、澪先輩が失笑して言うと、
私はその勢いを借りて、律先輩にあてこする。

 「律先輩のせいで電話屋さんみたいな略称になっちゃいましたよ!どうするんですかこの名前!」

 「気付かなかったんだって!実際、放課後じゃないんだからいいだろ…」

唇をとがらせながら恨めしそうに言い返す律先輩。
それを受けて、ムギ先輩が全員の顔を見回して提案する。

 「フフ、じゃあ、戦争が終わって梓ちゃんが帰ってきたときに、名前を戻さない?
  そのときには、放課後も、ティータイムも、復活しているはずよ!」


275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 21:18:06.97 ID:ma4sc4GF0


律先輩が、その提案に賛同してまた笑う。

 「そうだな!そしてまた、それぞれの楽器を演奏しよーぜ!」

その言葉を聞いた澪先輩が、ムギ先輩の袖を引っ張って注意を促しながら言う。

 「…戦士の心を喜びで満たすために、な」

澪先輩の意図を察したムギ先輩は、

 「…そして私たちは、みんなきっと嬉しくなるわ」

と言って、唯先輩に耳打ちする。耳打ちを受けた唯先輩が私に向き直る。

 「…あずにゃんが凱旋するときに!」


 「………あっ!それ4番の後半の歌詞ですか?"When Johnny Comes Marching Home"の!」

そう言って微笑んで目を細めた私の目尻から、涙滴が一滴絞り出される。


276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 21:21:45.55 ID:ma4sc4GF0


律先輩が、一瞬きょとんとして、その後決まりの悪そうな苦笑を浮かべる。

 「…実は全然意識してなかったんだけど、うまく拾ってつないでくれたなぁ。
  英語なんか全然わかんなくってさ」

 「フフ、律のことだから、そうだろうと思ったけどな。意味も分からず歌えないだろ。
  ふと気付いたんだ。意訳だけどなかなか粋だろ。耳はいいんだぞ?」

 「あら澪ちゃん、ちょっと前まですぐ見えない聞こえないとか言ってたのに」

 「ムギちゃん意外と毒舌になったよね。少し変わった?」

 「あらあらヒドいこと言わないで。唯ちゃんも変わったわよ。成長したわ!」

 「いやぁそれほどでも~」


以前とは少し変わった先輩方が、以前と同じようにダベっている。

 (こんな他愛のないふざけたやりとりも、当分見納めかぁ…)

そんな感傷を抱きながら、私は、まんじゅうを飲み込んだ。

甘い甘いあんこの味を、涙の塩気が、さらに甘く引き立てた。


277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 21:32:08.10 ID:ma4sc4GF0


────その後、冬の訪れとともに、私たち二年生は兵役に就いた。


──熊本県熊本市北部

そして、今や小隊の戦友となった級友たちとともに、
合志市を経て南に向かう軍用トラックの荷台に揺られながら、私は憂、純と語らう。

一瞬、鼻に焦げ臭さを感じて、幌の隙間から外を覗くと、
休耕田に大破した装甲車が、そのタイヤから黒煙をくすぶらせながら転がっている。

運転席にほど近い荷台の上座で、私たちの様子を眺めながら、
鉄鉢を被った元生徒会長が微笑を浮かべている。

 「あー、こうして振動受けてるとお腹が減るよね」

 「純はいつでも腹ペコだよね…」

 「ふふ、『オツベルと象』みたいだね、純ちゃん」

 「野戦なら食料調達は任せてよ!」

 「純ちゃん、私たちは市内で市街戦みたいだよ。それに私たちは自然薯堀りが主任務じゃないよ…」

 「そうだね。春先はフキノトウとかも採る自信あるよ。意外と街中にもたくさん生えてるし」

 「純はたくましすぎるんだって!」

そう言って、私は苦笑した。


278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 21:43:22.57 ID:ma4sc4GF0


戦闘服の胸ポケットに、名刺大のカードが入っている。
先輩方から出征の際にもらったものだ。取り出して眺める。

   "When AZUSA comes marching home again, Hurrah! Hurrah!
    We'll give her a hearty welcome then, Hurrah! Hurrah!
    YUI will cheer and RITSU will shout
    MIO and TSUMUGI will all turn out
    And we'll all feel gay
    When AZUSA comes marching home! by HTT 改め NTT"

私は苦笑しながら、裏面も見る。

   “あずにゃんぶんがたりなくてこっちがしにそうです! ゆい”

   “やられる前にやってやるですの精神で敢闘せよ! by 律”

   “恥ずかしい略称を直せるのは梓だけだ。絶対帰ってこい! MIO(代筆律)”

   “■←ここをこするとバニラの香りがします。帰ったら本物を! 紬より”

何度見ても吹き出しそうになる寄せ書きを見て、カードをポケットに戻す。

 「フフ…この人たちには、かなわないなあ」


279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 21:50:25.81 ID:SwGa6Nat0

唯はもう漢字とか難しい字を書けないんだな


280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 21:56:25.53 ID:ma4sc4GF0


    先輩方は傷つきながらも、約束通り凱旋してくれた。

    次は、私が約束通り凱旋する番だ。

    そして、本格的に“放課後ティータイム”の活動を再開させるんだ。

      (Come back、私!)

    軍用トラックの荷台の上で、私は小さくガッツポーズをした。






          ───そして、

                “梓は戦場へ行った”


                                    ┼ヽ  -|r‐、. レ |
                                     d⌒) ./| _ノ  __ノ
                                   
                                    制作・著作 ΝΗΚ
─────────────────────

ED曲 "When Johnny Comes Marching Home"


281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 21:58:21.74 ID:MoN7mzDb0


梓が結局どうなるのか気になるな


282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 21:58:45.36 ID:ma4sc4GF0

これにて終了。支援感謝。暗い話に長々お付き合い頂き深謝。
一夜明けてスレが残っているのは初めてですごく嬉しい。

ラストは一応投げっぱなしではなく、示唆というか後日談というか的な何か。
ピンときてわかった人もいるかもしれないが、わからない場合は“最後の一行”を少し変えてググると吉。
ヒントはスレタイなど。


284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 22:03:42.59 ID:SwGa6Nat0


すごい面白かった


290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/08/16(月) 22:39:29.21 ID:8jON8fNOO

よかったよ、乙
梓は戦場へいったか



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